劇場公開日 2025年10月17日

「言葉を交わさなくても成り立つ関係」おーい、応為 文字読みさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0 言葉を交わさなくても成り立つ関係

2025年10月30日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

2025年。大森立嗣監督。葛飾北斎の娘・おえん(応為)は離婚して晩年の北斎と二人暮らしをするようになる。人並みの恋、絵師としての仕事、家族への想い、そして偉大な父との微妙な距離などを交えながら、二十年以上にわたる二人の生活を描く。
離縁から始まる最初の数分、歩く応為を真正面から手持ちカメラが後退しながら撮るシーンが続くのだが、ここではカメラはぶれずに歩く姿をくっきり写すほういいんじゃないかと思ってしまったら、そこから真ん中くらいまでの展開がいかにも停滞しているような、動きが鈍いような印象でどうにも入り込めなかった。ところが、スマホもテレビもない時代の対人関係はこのように動きが少なく退屈で鈍いものだという気づきがあり(人物がゆっくりお茶を飲むシーンで気づかされる)、そこからはむしろ動きのない人間同士が一緒にいるシーンの長さが心地よくなってきた。特に、北斎が背を丸めて絵を描き、応為がだらけて横たわってキセルを吸う、という引っ越すたびに繰り返されるシーン。無理に言葉を交わさなくても成り立っている二人の関係。
ロケ場所もすばらしい。北斎の娘で応為の妹は病気で目が見えず、母と一緒に田舎に暮らしているのだが、その家を訪れる道中、横移動して歩く人物の後ろにうっそうと茂る高い木々が揺れている。応為がこの道を走るとき、人物は小さく、木々は圧倒的なボリュームで迫ってくる。すごい。また、富士にこだわる北斎が応為とともに訪れた富士山が見える荒廃した赤黒い岩石だらけの土地で、高齢の北斎がいまだに絵画の魅力に取りつかれて苦悩するシーンもすごい。赤富士ってこういうことだったの?

文字読み