「監督の持ち味と噛み合っていない?」おーい、応為 alfredさんの映画レビュー(感想・評価)
監督の持ち味と噛み合っていない?
「北斎漫画」(81年)という作品がある。新藤兼人作品で、データによると緒形拳さんが葛飾北斎役で、応為役は田中裕子さんだった。
北斎の描いた浮世絵をスクリーン上に再現させようとする目論見があるように感じられる作品というのが公開当時の私の印象だ。
TV放映も何度かされたと記憶するが、平成以後にはないかもしれない。
葛飾応為という人を私は知らなかった。映画「北斎漫画」にもでているはずだが、私の記憶からすっぽりと抜けていた。
かの北斎の娘とはいえ、武士や公家の娘ではないので残された資料は少なく、詳細はよく分からないようだ。映画の最後にも、北斎が亡くなった後の応為について諸説ありとしているくらいだ。生没年すら不詳ということだ。
北斎が引っ越し魔(本作でも幾度も引っ越しをしている)で当時としては長生き(享年88才)だったことはクイズ番組等ではよく出される事柄なので、その程度の基礎知識で映画を観た。
応為は、江戸落語に出てくるような小気味良い啖呵を切る人物として描かれる。嫁いだ先の夫(絵師)に罵詈雑言を浴びせて三下り半を突きつけるところから映画が始まる。長澤まさみさんはいい感じで演じていたと思う。
ただ、映画に臭いが立ち上がって来ないという印象か。
江戸の長屋に、散らかり放題で、歴史に残る浮世絵師の仕事部屋には特有の臭いがあるはずだが、何故か無臭の印象だ。
4D映画じゃあるまいしと思う人もいるかもしれないが、優れた映画には湧き立つ匂い(臭い)がするものだ。
食事シーンとかもっと工夫してもよかったのではないかと思う。
トランペットやギターといった楽器で劇伴がなされているが、意外と時代劇ではこうした西洋楽器がよく使われれる。「水戸黄門」や「暴れん坊将軍」では、テーマ曲や格闘シーンでトランペットやホルン等が鳴り響いている。
「木枯らし紋次郎」では、上條恒彦さんがフォーク調の「誰かが風の中で」(脚本家・和田夏十さん作詞、小室等さん作曲)をテーマ曲として歌っている。
永瀬正敏さん演ずる北斎は仙人のようにどんどん老けていくが、応為はあまり年をとっていく感じがしない。これは敢えての演出なのだろか。
優れた先達や同輩が同じ世界にいるということは、心強い面もあるが窮屈な面もあるだろう。
応為は北斎をどう思っていたのだろうか。良き先輩あるいはライバル、あるいは超えられぬ高い壁? そういった面を強く打ち出したほうが良かったと思う。
大森立嗣監督の実父は舞踏家で怪優の麿赤兒さん、弟は俳優の大森南朋さん。そういった環境がこの映画に強く反映されていけば、もっと面白くなったかもしれない。
「まほろ駅前」シリーズのやや緩めさが大森監督の持ち味と思うが、今回は上手く噛み合っていないように思われた。
映画チケットがいつでも1,500円!
詳細は遷移先をご確認ください。