「父と子」おーい、応為 たまさんの映画レビュー(感想・評価)
父と子
飯島虚心「葛飾北斎伝」、杉浦日向子「百日紅」をベースとした大森立嗣監督作。葛飾応為を長澤まさみ、北斎を永瀬正敏が演じる。
北斎にお栄という娘がおり、北斎の最期の時まで、彼の創作を支え、自身もまた画才を発揮し作品を残す。画号は応為。彼女の人生は天才絵師、北斎の影となり謎に包まれている。
葛飾応為の存在が、注目を集め始めたのは近年だろう。
男勝りで破天荒、嫁いだ先の男に三下り半を突きつけられ
父のもとにお栄が戻ってくるところから、話が始まる今作。
生涯に幾度も居を変え、そこに悪態をつきながらも父の画才を認め、追い求めるお栄は付き従い、支えていく。
長澤まさみの応為は、きせるを吹かし酒を飲み、しかし父と共に画を無心に描く、画に魅せられたアーティストとしての側面。北斎の門人にして、独立し画を残す魚屋北渓へのほのかな恋心を抱く女性としての側面。それらを繊細かつ豪放磊落に演じ、演技の幅を広げている。美しさ、憂いを秘めた眼差しを表現しながら存在感を放つ。
北斎の永瀬正敏。画を描き続け、最期の時まで描き続ける、芸術家の狂気まで突き抜ける北斎の姿をみせる。すでにベテランの域に達した円熟。
映画はこの破天荒な父子関係に焦点を当て、そこにおいてはこの2人の演技は見どころだろう。
だが残念な面も見受けられる。演出は悪くないと思う。シナリオに弱さが見られる。父と子の物語を120分で語るならば、その周縁の人物達の描きこみも、もうひと推しが欲しかった。高橋海人演じる渓斎英泉の存在、魚屋北渓との関係性の描きこみの物足りなさ…など。物語そのものの起伏が少なく、平坦に近いと感じられる面。
画面にはダイナミズムも感じられ、富士や火事の場面、ほたるが舞う河原の美しさ、夜空に映える花火の美麗…など見惚れる場面も多い。それゆえにもう少し、語りの起伏が欲しい。
物語という枠組みにこだわるのならば
映像、俳優の演技が、駆動力としてもうひとつ機能していないのでは、と感じる。そこがもったいない。
葛飾応為の話でいえば、2018年NHK制作、原作朝井まかて
「眩」のTVドラマがある。73分という時間で北斎、応為の濃密な物語を見事に映像化したものがある。
宮崎あおいの応為、長塚京三の北斎、渓斎英泉の松田龍平…
もちろんベースとなる原作も違う。比較対象とするのもまた違うのかもしれない。
見られるのならば、このドラマもおすすめしたい。
ともあれ、長澤まさみ、永瀬正敏、寺島しのぶ…芸達者たちの演技、世界的浮世絵師、葛飾北斎。そして娘の葛飾応為の生きた時代に触れられることは間違いない。
豪華キャストの名演に星ひとつプラス。
共感ありがとうございました。
汚部屋に拘りすぎ。書き損じの山があっても、それは作家なりの”境界”があるはずで(墨皿をこぼさないように必ず本紙より低く置くとか)あんなに酷いものではない。
共感ありがとうございます!
応為についてはもう少し深掘りして欲しいところですが、自分も色々調べても北斎の没後に応為がどのような生活をしていたか全然わかりませんでした。杉浦日向子の百日紅に寄せた脚本だと思いますが、自分的にはあの作品にさらに脚色してしまうと「応為捏造」になってしまい、バカリズムに脚本を任せなければならなくなるので、このくらいの構成が良い塩梅と思いました。
映画チケットがいつでも1,500円!
詳細は遷移先をご確認ください。


