「85点/☆3.5」おーい、応為 映画感想ドリーチャンネルさんの映画レビュー(感想・評価)
85点/☆3.5
難しい。今作の感想はとにかく難しい。
葛飾北斎の娘・葛飾応為(お栄)の半生を描いたこの映画。
江戸中期の浮世絵界を舞台に、天才絵師の父娘が織りなす師弟関係と女性の覚悟を追う。
期待を胸に劇場へ足を運んだが、ハッキリ申し上げれば、面白くなかった。
是か非かで言えば、圧倒的に「非」が勝り、せっかくの「是」さえもったいなく霞んでしまった。
こういった作品だとレビューをわざわざ読む人も少ないだろう。
それでも、数少ない「面白かった」と感じて訪れた人に「つまらなかった」と突きつけるのも、レビュアーとしてどうかと思う。だからこそ、書きづらい。難しい。
物語は、夫と離縁したお栄が父・北斎のもとに戻り、再び絵師としての道を歩み出す姿を描く。
本来であれば「父の名声に隠れた娘の才能と苦闘」が主軸になるはず。だが蓋を開けてみると、印象はほとんど北斎の伝記映画。娘の視点で描かれているようで、結局は父の老年期の哀愁と豪快さが主役を食ってしまう。
夫との離縁以降に焦点を置いた構成のため、父娘の関係性の原点がぼやけ、師弟関係への移行も弱い。
また、応為や北斎の事前知識がなければ理解が追いつかない展開も多い。
キンプリの髙橋海人をキャスティングしたことで若い観客を呼び込んだのは確かだが、その層に向けた導入や説明がほとんどなく、作品としての「親切さ」に欠けていた。結果、観客は置き去りにされてしまう。
どうしても看過できないのが音楽。
全編に散りばめられたトランペットの旋律が、作品世界を著しく損ねている。
「なぜトランペットなのか?」
江戸の情緒と噛み合わず、映像との齟齬に鳥肌が立つほど。
冒頭とエンディングで同じメロディーが繰り返されるのも、作品全体を軽く見せてしまった。
それでも救いはある。キャスト陣の演技。
長澤まさみの応為は、成熟した女性の色気と覚悟を見事に両立している。
「兄妹としてしか見られない」とフラれた後、女を捨て絵師として生きる決意を固めるシーン。
服の着こなし、かんざしを捨て去る覚悟、髪型の変化。
細部の演出で、応為の内面的変化を静かに、しかし鮮やかに映し出していた。
そして何より、真のMVPは永瀬正敏。
老年期の北斎を、繊細さ・豪快さ・哀しみのすべてで体現した。画面に立つだけで空気を変える存在感。今年の映画賞で彼の名を聞く日も遠くないだろう。
そして、終盤の父娘のシーン。
死を悟り、娘を気遣い自由に生きろという北斎の言葉に、お栄は激高する。
娘であり弟子でもある。その複雑な関係性がぶつかり合う。
父への尊敬も、絵師としての誇りも、同じ熱で燃えている。
弟子であり娘であるからこそ、彼女は言う。
『嫌なら、最初からここにはいない』
その一言に、すべてが込められている。
85点/☆3.5
哀しい。映画を酷評するために観に行くわけじゃないし、そんなレビューを書くためにサイトを訪れているわけでもない。
ただ、この胸の奥底から湧き上がる虚しさを、文字に昇華しないと気が済まない。
応為の人生は、本来もっと輝くはずの物語。知れば知るほど、応為の情熱と自由奔放さが現代に響くのに、この映画はそれを十分に引き出せなかった。
せめて演技の余韻だけは心に残るだろう。
2018年にNHKで放送された
『眩(くらら)〜北斎の娘〜』(宮崎あおい・長塚京三主演)の方が応為という人物の魅力と苦悩を、より丁寧に描けていたと思う。
女性の立場、絵師として生きる日常、描くことを魅力的に表現した演出、絵師とは何かの本質に最も近づいた映像化だったと思う。
ここに、その記憶を記しておきたい。
こんなレビューは、もういらん。
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