劇場公開日 2025年10月17日

「砂糖と塩を描き分けろ!」おーい、応為 ノーキッキングさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5 砂糖と塩を描き分けろ!

2025年10月17日
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意外と長澤まさみが応為役にハマるのではないかと自家アンテナが判断して観たが、美人は美人でも顔が濃くて江戸情緒にはそぐわなかった。物憂げな表情で汚部屋に居るのもしっくりこない。ただ、面相筆を立てて描く指使いは綺麗で、気風がよく、啖呵を切る姿は想像通りだった。
疑問なのは、父娘の絵を褒める人間がひとりも出てこないと言うこと。二人を称賛した“世間側”が全く描かれず、カメラが追うのは小汚い部屋で『描く、食う、寝る』だけ。父の弟子であっても、懇切丁寧に技を伝授されることなく、同じ空間に居るだけだから、見習いの料理人のように味を盗むしかなく、もし応為に天賦の才が無かったらパシリで終わってしまっただろう。

私自身の仕事柄、“親子共に画家”であるお宅に伺う機会があるが、よく見聞きするのは、尊敬し合う親子関係ではなく、えげつない妬心や辛辣な批評である。だから、映画の父娘が本音をぶつけ合う会話が愉しくて仕方がない。隣家の火事シーンで類焼が避けられないと悟ったふたりが『要らねえな』と言い合い、アッサリ家を捨ててしまう場面は特に興味深かかった。

また、応為が北斎のゴーストライターであるとする話が在るが、敢えてそれは無粋であると言いたい。父娘分業、共同作業でよいではないか。芭蕉にしてもその著作は殆ど弟子によるものなのだから。

ストーリーに起伏は無く、俗衆の中に埋もれている世捨て人父娘の日常が淡々とつづられる。飼い犬の死、妹お猶の死、弟子善次郎の死、行き倒れの屍を尻目にフラフラになりながら行き交う過酷な富士山詣でが描かれたりする。そして昇天する黒い龍を描き終え、うっ伏したまま絶命した北斎のコロリ往生。
まったく動揺すること無く、こざっぱりとした着物姿で劇中初めて“正座”する姿を見せる応為。その凛とした佇まいは美しいが、心には“無常観”しか宿っていないかのごとく眼差しは虚ろなままだ。

表題の『砂糖と塩』画家を志す者に対する象徴的な命題。美大の受験科目によく出るヤツです。

追記
隠棲している父娘のやり取りをいったい誰が記録したのか?  多くは弟子達の口伝なのだろうが、あやしいエピソードがいっぱいある。応為の、吉原取材などは後付けだろう。“中で働く”ならともかく、女子が大門をくぐって見学する自由はないはず。また、北斎絶命のシーンも出来過ぎだ。水に映った月を掬おうとして溺れたと伝わる詩人の李白の例もしかり。まあ、そのような噺はあまた存在するのだが……

ノーキッキング
さんのコメント
2025年10月24日

コメントありがとうございました。
ご指摘のとおりよく人や犬が亡くなるお話でしたね。
それがあまり記憶に残らないというか、悲劇として描かれていないところが、本作の特長だと今気が付きました。

鶏
td1935さんのコメント
2025年10月24日

手ほどきするところがないのは、当然、1820年、北斎60歳、お栄41歳頃からの話です。北斎の画がほめられるところがない、大名に、屏風画を頼まれる、画を書いてほしくて、体を提供したと思われる女がいる、何回か刷り直しを指示された業者があっさり引き下がる、画が認められていたことがわかるエピソードはありましたよ。長屋での会話などはどうしてわかったのか、ドキュメンタリーではないですよ、事実として残っている事には沿い、それ以外は、表したいことことをつたえるようにした創作であるのが、映画でしょう、この作品にかぎらず。

td1935
uzさんのコメント
2025年10月23日

コメントありがとうございます。

部屋がいくら汚くても、年月がいくら経っても、長澤まさみだけは綺麗という…
最後の無常観からすると、北斎の死後は筆を折ってそうですね。
まぁ、作品が残っていない以上そう描くしかなかったのかもしれませんが。

uz
月光仮面さんのコメント
2025年10月23日

こんばんは。共感&コメントありがとうございました。あんな汚くて散らかっている部屋で、よく絵がかけるものだとビックリでした。今でいうゴミ屋敷でしたね。

月光仮面
yjqさんのコメント
2025年10月22日

コメントありがとうございます。
応為の作品は北斎の物とは違いますが、晩年の北斎の作品は応為が手を加えてるのかと見えたりしますね。
そこを探る事も今の技術的にはできそうですがやるのはナンセンスですよね。

光彩は最近AIでも結構細やかに良い仕事してくれますね。

yjq
おじゃるさんのコメント
2025年10月22日

共感&コメントありがとうございます。
確かに、今観ている大河ドラマ「べらぼう」でも絵師が登場しますが、あんなに乱雑な部屋はないし、描いた絵もきれいに広げて置いてます。実際に北斎はあんな感じだったんですかね?

おじゃる
あんちゃんさんのコメント
2025年10月22日

北斎は実際は江戸で、それも浅草で亡くなっています。盛大なお葬式だったそうです。

あんちゃん
ゆり。さんのコメント
2025年10月22日

北斎の絵への情熱、向上心は伝わったのに、お栄は淡々とし過ぎでしたね。
確かに、長澤まさみさんが男勝りで部屋も汚い、料理もしない、でも一たび筆を握れば唯一無二の才能を発揮し、繊細で美しい絵を描く、というキャラクターを見せる事にこだわってしまい、そこに到達するまでの経過が抜けていると感じました。
部屋は汚な過ぎですよね。訪ねた客人が足の踏み場が無くて敷物を敷いて座ったらしいですが、あれでは敷物も敷けません。紙も絵具も高いのに、扱いが雑過ぎでしたね。

ゆり。
島田庵さんのコメント
2025年10月20日

妓楼格子先図には、
元絵とおぼしきもの(川原慶賀作)があるようですね。
そこから想像力を働かせたのかなぁと思います。
だって「なか」へは、ねぇ…

島田庵
やまちょうさんのコメント
2025年10月20日

共感、コメント有難うございました。

おっしゃる通り、生活スペースが汚部屋になるのはまだしも、作品創作スペースと作品自体が汚れそうなのはなんか興醒めですね。

やまちょう
シネマディクトさんのコメント
2025年10月20日

共感&コメント、ありがとうございます。北斎父娘が世間から隔絶した感じで残念でした。

シネマディクト
トミーさんのコメント
2025年10月19日

コメントありがとうございます。
しばらく観続けないと、まさみ=お栄がしっくり来なかったですね。

トミー
モーさんさんのコメント
2025年10月19日

ノーキッキングさん、こんにちは。同意のコメントありがとうございます。わたしは別にアンチではないのですが、どうしても応為にはもちろん江戸時代の女性にも見えなくて。現代の日本映画界を代表する人だから色んな役に挑戦したいのでしょうけど役を選ぶのも大事です(とりわけどんな役でも演じられるタイプの女優ではないので)。
ノーキッキングさんの文章、興味深く読ませていただきました。

モーさん
2025年10月19日

共感コメントありがとうございました!

映画感想ドリーチャンネル
ミチリンさんのコメント
2025年10月19日

コメントありがとうございます。
そうですね、確かに作られたエピソードが多いと思われます。
なんてったって、その後の応為の消息さえよくわからないのですから、作り話だと思います。でも、北斎の娘、応為に今回スポットライトが当たった事を嬉しく思いました。

ミチリン
bionさんのコメント
2025年10月19日

コメントありがとうございます。
> 多くのエピソードは弟子達の口伝なのでしょうが、北斎の最期は出来過ぎのような………

北斎の最後はこうあって欲しい願望なんでしょうね。

> 隣家の火事シーンで類焼が避けられないと悟ったふたりが『要らねえな』と言い合い、アッサリ家を捨ててしまう場面は特に興味深かかった。

僕もこのシーンが好きです。絵の才があれば、場所はどこでもいいという自信を互いに持っていて、短い言葉で意思疎通できてしまう。

bion
満塁本塁打さんのコメント
2025年10月19日

コメントありがとうございます。今に残る吉原大門 今は住宅地。バス停あり。確かに 当時はおっしゃるとおりですね。勉強になり📚ます。ありがとうございました😊

満塁本塁打
りあのさんのコメント
2025年10月18日

共感、コメントありがとうございます。
妹、父の死、母はどうだっけ?
いずれにせよ、周りの死は無常ですね。
あの後応為はどうなったのか不明というのが、また寂しいですね。

りあの
SAKURAIさんのコメント
2025年10月18日

こんにちは~

第1線で活躍する女優さんに濡れ場は求めてないです!(笑)

際どいのはいいですけどね~

SAKURAI
Bacchusさんのコメント
2025年10月18日

わたしはオッサンですがカマキリ掴めません(゚∀゚)

Bacchus
しろくろぱんださんのコメント
2025年10月18日

共感ありがとうございます。
入りはよかったのですが途中同じ様な展開に飽きてしまいました。

しろくろぱんだ
ひでちゃぴんさんのコメント
2025年10月18日

ありがとうございます!
非常に勉強になりました。
特に親子のくだりは現実をつきつけられた感があり、刺さりました。

ひでちゃぴん
おつろくさんのコメント
2025年10月18日

共感・コメントありがとうございます!

北斎がお栄に画を描くことを教えた訳でもないのに応為として才能を開花させたのは、遺伝だと思います。自分はデザイン学校出身なんですが、娘は特に教えた訳でもないのに絵に興味を持って、コミケで薄い本を出せるレベルの絵を描くようになりました。

おつろく
ノブ様さんのコメント
2025年10月18日

原画があるんですね!
それを使って展覧会してるんですね。
今年やっていたんですが見に行けず。
行けばよかったな。

ノブ様
琥珀糖さんのコメント
2025年10月18日

共感そしてコメントありがとうございます。
もうちょっと熱量が伝わって来てほしい感じでしたね。
長澤まさみと永瀬正敏が圧巻の存在感でしたが、
部屋が汚すぎて・・・
散らかり過ぎたら、片付けずに引っ越したそうですけれど
良く素晴らしい作品が生まれたものだと感心しました。
「塩と砂糖?」
聞いたことないです。

琥珀糖
かもしださんのコメント
2025年10月17日

ノーキッキングさん
コメント、共感ありがとうございました。
物語に起伏がないまま終わってしまいましたね。
仰る通り、褒める人を出していない点、汚さを強調していた点は疑問に感じるところですよね。
実際、監督は撮影現場に腐ったものを置いていたらしいので拘りはあったみたいですが、映像では伝わっていないのが残念でした。

かもしだ
コウジさんのコメント
2025年10月17日

コメントありがとうございました。
確かに父、友、妹、犬と別れが数々ありましたが涙を見せませんでしたね。
砂糖と塩の描き分けはどう考えても難しい課題ですね。
自分ならどう描くか考えちゃいました。

コウジ
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