「Devil of the Delta Blues Singers. ジャンル全部載せ、灼熱のガンボ・インフェルノ!!」罪人たち たなかなかなかさんの映画レビュー(感想・評価)
Devil of the Delta Blues Singers. ジャンル全部載せ、灼熱のガンボ・インフェルノ!!
1930年代のアメリカ南部を舞台に、若きブルースマンとその仲間たちが体験する恐怖の一夜を描くミュージカルアクションホラー。
監督/脚本は『クリード チャンプを継ぐ男』や『ブラックパンサー』シリーズの、名匠ライアン・クーグラー。
新たに酒場をオープンした双子のギャング、スモーク&スタック兄弟を一人二役で演じるのは、『クリード』シリーズや「マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)」のマイケル・B・ジョーダン。
スタックの元恋人、メアリーを演じるのは『はじまりのうた』や『スパイダーマン:スパイダーバース』シリーズのヘイリー・スタインフェルド。
神楽、読経、雅楽、聖歌、ゴスペル、ケチャ、ハカ、レゲエ、ナシード等々、古来より洋の東西を問わず音楽は“異界“との交信の為に用いられて来た。精霊や御霊、神を鎮魂、あるいは礼賛するのが目的なのだが、往々にして彼方の存在は正邪の境界が曖昧になるものである。
従来の西洋的“清きもの“へのカウンターとして生まれたブルースは、「悪魔」と結びつけて語られる事が多い。“史上初のロックスター“とも称される伝説的ブルーズマン、ロバート・ジョンソンは十字路で悪魔と契約を交わし、天才的なギターの腕前と引き換えに自らの命を捧げたという。享年27。この後、天才的な才能を持つミュージシャンが27歳でその命を落とす事例が頻発する。ブライアン・ジョーンズ、ジミ・ヘンドリックス、ジャニス・ジョプリン、ジム・モリソン、カート・コバーン、エイミー・ワインハウスなど、悪魔を魅了しその魂を引かれた者たちの事を「27クラブ」という。
ロバート・ジョンソンをはじめとする27クラブのメンバーに限らず、ブルースの世界では傑出したミュージシャンの早逝は珍しい事ではない。
「20世紀前半で最も優れたブルース歌手」リロイ・カーは30歳、「ロックンロールの祖」スリム・ギターは32歳、「キング・オブ・ザ・カントリー・ブルース」ブラインド・レモン・ジェファーソンは36歳、「天才ハーモニカ奏者」リトル・ウォルターは37歳、「三大キング」のひとりフレディ・キングは42歳、「キング・オブ・ザ・スライドギター」エルモア・ジェームスは45歳。作中、プリーチャー・ボーイが持つギターの前の持ち主だとされた「デルタ・ブルースの父」チャーリー・パットンも43歳で亡くなっており、この様に50歳以下で魂を悪魔に奪われたブルーズマンは後を絶たない。
この場合の悪魔とは「病」あるいは「事故」、はたまた「酒」や「ドラッグ」などを指すわけだが、今作ではブルースが文字通り本物の“悪魔“を連れて来てしまう。
前半、アル・カポネの下から金を持ち逃げしてきた双子のギャング、スタック&スモークが仲間を集め、黒人専用の酒場をオープンさせるという件(舞台となる1932年はまだ禁酒法が施行中であり、酒場で酒を提供する事は“罪“とされた)から一変、後半では迫りくる吸血鬼を酒場で迎え撃つアクションホラーが展開される。更に最終的にはKKKとの銃撃戦まで繰り広げられるという、正にジャンル映画の“ガンボ・インフェルノ“である。
怠惰、強欲、色欲、暴食、嫉妬、傲慢、憤怒といった“大罪“を享受する酒場の面々vs吸血鬼という、内容だけ聞くとバカバカしい映画の様だが、天才ライアン・クーグラーがただ騒がしいだけの映画を撮る筈がない。長編デビュー作『フルートベール駅で』(2013)で見られた人種差別への鋭い視線や、『ブラックパンサー』(2018)で描かれた黒人文化へのリスペクトが全編を貫いており、非常に知的で洗練された印象を受ける一本である。
黒人たちを襲撃する、ジャック・オコンネル演じるヴァンパイアにも注目したい。
ブルースに誘われただけあり、彼もまた音楽的な素養に溢れている。彼とその下僕たちの演奏には黒人たちも「悪くないな」と感心してしまうほど。
ここで彼が演奏しているのはアイリッシュ・フォーク。白人音楽であるフォーク・ミュージックは黒人音楽のブルースと交わり、やがて「スキッフル」というジャンルに変化。海を渡ったスキッフルはイギリスで流行し、ブルースの派生系である「ロックンロール」と同化。イギリスで「ロック・ミュージック」として生まれ変わったこのジャンルは祖国アメリカをも席巻した。
この現象は「ブリティッシュ・インヴェイジョン(英国の侵略)」と呼ばれるが、その名が示す通り、黒人音楽のブルースは白人音楽のロックに取り込まれ衰退してしまう。考えてみれば、これは「文化の盗用」と呼ばれるギリギリのラインである。
ジャズの世界ではベニー・グッドマンが「スウィングの王様」、ロックンロールではエルヴィスが「キング・オブ・ロックンロール」、ヒップホップではエミネムが「史上最も影響力のあるラッパー」と、常にブラック・ミュージックは後に出て来た白人アーティストにそのジャンルのお株を奪われて来た。もちろんこれはそのアーティストに天才的な才能があったからこそだが、ただそれだけではないと言う事も頭の隅に置いておく必要があるだろう。
『ブラック・イナフ?!? -アメリカ黒人映画史-』(2022)という、デヴィッド・フィンチャーとスティーヴン・ソダーバーグがプロデュースしたドキュメンタリー映画があるが、これは映画界における白人による黒人搾取=「ブラックスプロイテーション」に着目した作品である。これに描かれている様な黒人の文化が白人に搾取され続けている現状に対する批判的なメッセージを、彼はフォークミュージックを奏でる白人ヴァンパイアという形で暗に示しているのだ。
全米で大ヒットしたというのも頷けるエンタメ的な面白さと、批評家を唸らせたというテーマ性が見事に合致。ジャンル映画的な観点でいうと、ちょっとスマートすぎて下品さが足りないという不満もあるが、まぁここまでの完成度の映画はなかなかお目にかかれない。見事っ👏
本作はクーグラー監督の長編5作目だが、早くもキャリアを総決算するかの様な力作を作り上げてしまった。この後が大変だと思う一方、次にどんな傑作を作るのか興味が尽きない。
今最も注目されている映画監督、ライアン・クーグラー。彼の動向に目が離せませんっ!
※「世界で最もセクシーなアニオタ」ことマイケル・B・ジョーダン。クーグラー監督はデビュー作から一貫して彼を起用し続けている。監督した長編映画5本全てに出演しているどころか、プロデューサーを務めた『スペース・プレイヤーズ』(2021)でも死ぬほどしょうもない使い方で彼を出演させている。今作でももちろん彼を起用しているのだが、まさか2人に分裂させちゃうとは…。どんだけ好きなんだよっ💦💦
何はともあれ、本作を観たトム・クルーズはBジョーダンの演技を絶賛し、「次の映画では絶対彼と共演するっ!」と息巻いているらしい。確かにトムクルとBジョーダンの共演は観てみたい!Bジョーダン、あんた多分近いうちに上空3,000mくらいのところでで格闘スタントやらされるぞ!気をつけなはれやっ!!
映画チケットがいつでも1,500円!
詳細は遷移先をご確認ください。