「固定観念を逆手に取った怪作」ストレンジ・ダーリン 鶏さんの映画レビュー(感想・評価)
固定観念を逆手に取った怪作
シリアルキラーの物語ということで、冒頭は一見して変態然とした中年男(カイル・ガルナー)が、若い女性(ウィラ・フィッツジェラルド)を追いかけ回す場面から始まります。しかし、内容以上に興味を引かれたのは、全6章立てのうち「第3章」から物語が始まるという意外な構成でした。何らかの意図があるに違いないと思わせるこの仕掛けには、自然と注目が集まりました。
物語が進行するにつれて、「なぜ第3章から始まったのか」という理由が明かされ、これには驚かされました。なんと、シリアルキラーだと思っていた中年男は、確かにスケベではあるものの殺人鬼ではなく、実際に“ヤバい”のは追われていた女性の方だったのです。まさかの展開に、本当に腰を抜かしました。
章立ての順序を意図的に“ツイスト”させることで観客をミスリードし、その種明かしの後は、“レディ”と呼ばれる彼女をどうやって倒すかに焦点が移ります。最終的には、彼女が静かに力尽きていく姿を見届けることとなり、胸をなでおろして劇場を後にしました。
本作最大のポイントは、「シリアルキラーは男性である」という観客側の固定観念を逆手に取り、それを鮮やかに覆した点にあります。私自身も、まんまとその仕掛けに引っかかってしまいました。
このトリックを成功に導いたのは、何と言っても“レディ”を演じたウィラ・フィッツジェラルドの見事な演技でしょう。冒頭の草原で逃げ惑う彼女の表情を見れば、誰しも彼女の無事を願ってしまうはずで、その演技力にすっかり騙されてしまいました。また、“デーモン”を演じたカイル・ガルナーの、変態そのものの怪演も実に効果的で、作品に説得力を与えていました。
酷暑の続く季節に、背筋の凍るような一作。まさに今こそ観るべき作品だったと思いました。
そんな訳で、本作の評価は★3.6とします。
