「BL系ノワールの傑作」愚か者の身分 鶏さんの映画レビュー(感想・評価)
BL系ノワールの傑作
いわゆる闇バイトで戸籍売買をしている松本タクヤ(北村匠海)と柿崎マモル(林裕太)、そして2人の先輩格である梶谷剣士(綾野剛)の3人の若者の”もがき”を描いた作品でした。”闇バイト”、”戸籍売買”、”臓器売買”、”金塊密輸”など、かなり物騒ではあるけれども実際に報じられている犯罪行為をテーマとしており、しかも闇バイトをしている主人公たちや、戸籍を売ってしまう人達の来し方を聞くと、育児放棄だったり貧困だったりが原因でその道を歩まざるを得なかった境遇がそれとなく描かれていました。そのため、完全なフィクションでありながらも、極めてリアリティのある、実態を伴った物語になっていたところが素晴らしかったです。
そしてヤクザ組織(半グレ組織というべきか)内の人間関係の描き方や、各人の心理描写も非常に巧みであり、また歌舞伎町界隈が舞台となっていて、我々が住む現実社会の地続きにこの作品の物語世界が存在していると感じられたことも、本作の世界観に奥行きを持たせていたように感じられました。
また、伏線の貼り方とその回収も見事でした。全ての小道具に伏線が貼られていると言って良いほどにネタが仕込まれていて、後々その小道具が大きな意味を持つことになる展開は、終始心地の良いカタルシスを与えられているようでした。
以上、いくらべた褒めしても褒め過ぎということはない本作でしたが、最大の特長はBL要素が満載だったことでした。主人公のタクヤを中心に、タクヤとマモル、タクヤとかつての同級生、タクヤと梶谷の関係は、自己犠牲を伴うプラトニックな恋愛感情と言ってよいもので、なるほど男が中心となることが多い任侠物、ヤクザ物とBLというのは、実は相性抜群なんだと初めて気付かされました。臓器売買で眼球を奪われたタクヤと梶谷が逃走先でラブホテルに入り、梶谷がタクヤの髪の毛を洗ってやっていたシーンなどは、BLファンには垂涎だったのではないでしょうか。知らんけど。
最後に俳優陣ですが、まずは主人公のタクヤを演じた北村匠海がとても良かったです。NHKの朝の連ドラではやなせたかし先生をモデルとする役に扮していた北村ですが、反社に陥れられる公務員役を演じた「悪い夏」同様、本作でもどん底にいる役を好演。こうした役柄だと絶品の演技を魅せてくれる北村の次回作にも注目したいと思いました。そしてマモル役の林裕太も、軽い感じを出しつつも、徐々に成長する姿を演じていて、最高でした。これは演技というよりも演出というべきかも知れませんが、マモルの箸の持ち方が極端に下手くそで、これによって育児放棄されて家でご飯を食べたことがないと語るマモルの来し方に説得力を持たせていて、非常に印象的でした。柿崎役の綾野剛は、反社系をやらせれば天下一品なので今さら語るまでもないところですが、キックボクシングの練習風景や終盤の格闘シーンで見せた体の切れ、そしてラブホの入浴シーンで見せた肉体美と、出演時間としてはタクヤやマモルほどではなかったものの、しっかりと足跡を残していました。また、悪役勢も素晴らしく、ジョージ役の田邊和也のド迫力は最高でした。
そんな訳で、BLとヤクザ物の相性が抜群であることを教えてくれた本作の評価は、★4.8とします。
鶏さま
共感ありがとうございます🙂
最後の刑事がパパ活焼肉の囮捜査官だったのは、最高の伏線回収でした。
「賢者の贈り物」のようなラストと、エンディングの「人間讃歌」に泣きました🥲
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