配信開始日 2025年5月9日

「何にひきつけられるのか」バッド・インフルエンス 蛇足軒妖瀬布さんの映画レビュー(感想・評価)

3.5何にひきつけられるのか

2025年5月18日
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古典的なロマンスと衝突の物語に正面から挑んだ作品だ。

お嬢様とアウトロー、
美女と野獣、
といった対極の人物が織りなす関係性は、

昭和のマンガやドラマ、
映画はもとより、

江戸時代の日本の歌舞伎、
さらにはシェイクスピア劇に至るまで、
古今東西あらゆる物語で描かれ尽くしてきた。

このあまりにも普遍的な設定に、
現代の視点からどのような〈影響〉を与え、

新たな価値を見出すのか、
その一点が、本作の大きな焦点となる。

が、

数多ある過去作と大きな違いは無い、

が、

何かひきつけるものはある、

それは何なのか。

誰もがその展開を予測できるであろう王道中の王道を行く本作において、
意外なほど観客を引き込み、
作品全体の質を高めているのは、

他ならぬ主演二人の芝居の〈質〉である。

彼らの芝居は〈大げさ〉と評されるかもしれない。

しかし、
それは決して過剰な感情表現だけではなく、
内面に秘めた複雑な感情が〈眼が口ほどに物を言う〉かのように、

ほとばしる・・・言い過ぎだろうか・・・

二人の視線が交錯するたびに、言葉では語られない過去、
互いへの警戒心、
そして抗しがたい引力が鮮やかに描き出される。

この表現豊かな演技が、
ともすれば陳腐になりがちな、
「お嬢様とアウトロー」という記号的な関係に、

生身の人間らしいケミストリーが生まれている。

しっかりと訓練を積み重ねた形跡が見られる。

ウォルス監督は、この二人の軸に信頼を置き、
脇の人物には、
ありがちで過度な演出や、
奇をてらったギミックを使用することで、

軸の二人の縁取りを色濃くしているかのようだ。

まとめ

本作は、その設定だけを見れば〈またか〉と感じるかもしれない。

しかし、その「王道」を真正面から受け止め、
主演二人の眼力の芝居によってありがちな物語に、
命を吹き込んだ稀有な作品と言えるだろう。

普遍的なテーマに挑むことの意義と料理法を改めて提示し、
観る者に何かしらの印象を残す作品にはなっている。

蛇足軒妖瀬布