「重いけれども考えるきっかけにしなければならない」MELT メルト 何処吹く風さんの映画レビュー(感想・評価)
重いけれども考えるきっかけにしなければならない
重い映画です。これ以上ないほど救いもないし
解決方法を見つけることも不可能です。
でも、私は、この映画を観るべきだったことを
鑑賞後に思い知りました。ちょうど、昨日、
ご近所の方の友人が長年にわたって、旦那から
精神的暴力を受け続けているということを
聞いたのです。この映画の少女が近くにいて
彼女の被害を知ったからといって、どうやって
助けたらいいのか、どんなに考えても思いつく
ことは何もないし、モラハラ夫に苦しんでいる
女性を白馬の騎士のように救い出せるなんて
思えません。でも、知ってしまったのなら、
何もしないのではなく考えられる限り手を
尽くしてみるべきだと強く思ったのです。
単純な話、学校でイジメに遭っている級友が
いるのに、何もできないから何もしないのと
同じ事をしてはダメだと強く気づかせて
もらえたという意味で、この映画を観て
良かったと思えたのです
でも、その方を支援するために、ご近所の方に
協力していただくことを強要しては、ひとり
よがりでしかありません。
主演の少女役のほうは、撮影時、16歳だった
そうです。
演技指導についてはオーディションの段階から
心理セラピストに参加してもらったとのこと
です。子役たちには一緒の家で生活してもらい
互いを知る時間を十分に設けて、ハードな
撮影の後は一緒にゲームをしたり、おしゃべり
したりするクールダウンの時間を作ったとの
ことです。演技の記憶よりも、皆と楽しく
遊んだ記憶が残るように配慮したということ
ですね。
映画自体は、緻密に練り上げられていて、
そのことが、ややもするとリアリティを損なう
傾向もあったかもしれませんが描かれた事、
そのものに重要なメッセージがあり、それを
受け取ることが観客としての義務だと思い
ました。
この映画には、いくつも大切なことが描かれて
いて、そのひとつひとつを咀嚼するためにも
原作を読みたいと思いましたが邦訳版はなくて
オランダ語の原書しか見当たりませんでした。
これは、どうにもなりませんねぇ。そのうち、
翻訳本が出ればいいのですけど、もっと、
この映画が話題になってなければねぇ。
子役の女の子の卓越した演技力と監督の
細やかな神経が行き届いた画面づくりと
何よりも、原作の持つメッセージ性の強さが
細かな減点を大きく上回ったので、初めて
5.0と採点しました。
この映画を観て欲しい層がありますが、たぶん
加害者は自分の冒した罪に無頓着で何も響く
ことがないだろうとあきらめてしまわねば
ならないことが、いちばん悔しいのかも
しれません。