劇場公開日 2025年7月25日

「モザイクTシャツ気になってしまう」MELT メルト Minaさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0 モザイクTシャツ気になってしまう

2025年8月17日
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本作がスリラーに値するのかは不明だが、何はともあれ演技力に魅了された。主人公エヴァの少女役、ローザ・マーチャントはどこから引っ張ってきた逸材なのだろうか。幼少期の経験が一番大切な本作において、間違いなくそれを助長する演技力である。役者陣を自然な形で切り取った映像はどこか情緒的であり、絵のようにも感じる。それに相反してやって来る胸の痛くなるエンディング。かなり痺れた。無邪気だった幼少期と、恋人も居ない、家族とは疎遠、恐らく友達も居ない、真逆の人間になってしまったエヴァ。これを成人の"今"と少女時代の"過去"で時間軸を交差させて描いていく。時間軸が交差するタイプの作品は正直あまり好みでは無いのだが、本作にはそれによる複雑化などは見られないため、安心して物語に集中出来るだろう。
大人になった彼女に色濃く残る闇―なぜ彼女ばかり辛すぎる目に遭ってしまうのか。そういう時にはこれでもかと些細な事すら裏目に出てしまう。人生誰もが花畑を永遠と歩ける訳は無い。なぜ自分だけ、なぜこんな目に…という理不尽な経験は誰にもある。そんな人々が負った傷を更に広げるように悪循環が強まっていく。体調悪い時には少し観れないかも知れない作品だ。

自分もそうだったが、幼少期から共に過ごした友達に対しても、自分が格好良く思われたくなったりするものだが、相手が異性だと尚更である。憧れの先輩やアイドルみたいになろうと少ない知識で自分をメイクアップしていく心理は誰もが経験ある筈だ。その描写が非常にリアルであり、空回りして心がモヤモヤする心情と、浅い知識で異性に興味を持ってしまう所など、誰しもが経験するものを丁寧に描いているので、かなり感情移入してしまう。今回エヴァは、心のよりどころを求めていたのだと思うが、妹ばかり可愛がられ、"三銃士"は些細な事で亀裂が生じ、隣人のイケイケ女子は少し仲良くなったと思ったら…(ネタバレになるが馬のシーンだけは主人公が許せない)と先述の通りこれでもかと苦痛を与えられてしまう。こういうので人は非行に走ってしまうのだろうが、主人公が成人後に考えたのは、取り返しのつかない復讐である。過去に亡くなった友人の追悼式典のパーティーに参加するのに氷塊を持っていくというのが鑑賞前の謎だったのだが、映画中盤以降で主人公が何をしようとしているのかが少女時代のパートで分かる。分かってからがまた怖くて、より胸が苦しくなる思いになったが、誰が悪くて、どうするべきだったのかが明確に分からないのが本作の意地悪な所である。主人公にも悪いところがあり、皆それぞれすこぶる悪い奴という訳ではなく、誰を責めようにも責めれないまま大人になっていったのだ。ここまで主人公が可哀想な作品はそうそう無いだろう。どんな形であっても、"居場所"がいかに大切かが分かる作品である。

Mina