「現代進行形のホラー」エディントンへようこそ U-3153さんの映画レビュー(感想・評価)
現代進行形のホラー
この人の作品を見ていると人間は害悪でしかないと言われてるような気がする。
今作は特にそんな感じで、何を守り何と戦っているのかさえ疑問で、かつ滑稽に思えてくる。
分断の後の対立からなる結果を描いてるようだった。
人と人、コミュニティを崩壊させる分断には色々とある。コロナのような外的要因が生み出す強制的なもの。そこから生まれる疑心暗鬼。ルールへの依存。各々の価値観による分断。嫉妬、妬み、羨望に妄執する比較。自慢、嘲り、罵詈雑言。社会的地位の喪失とか、自己否定とか。噂や風評、他者からの批判。
極端に利己的な思考、権力、同調圧力。
数え上げたらキリがない。
それら全てが引き金となり得る不安定な現代。
正気を保てているのが奇跡のようにも思えてくる。
陰謀論を主張する老婆なんか最たる者で…つくづく思うけど、その説を広め賛同が得られたらどうだと言うのだろうか?情報弱者の馬鹿共を救ってやってる気にでもなるんだろうか?
「56の符号」みたいなエピソードがあって、後付けもこじ付けもいいとこで、あんな馬鹿馬鹿しい主張を本気で信じてしまう状態が理解できない。
信仰宗教だか団体の演説もそう。最もらしい事を言ってはいるが内容が全くない。その場の雰囲気で絆されそうに感じるが、映画という圧倒的な第三者目線で見ると冷静な判断もできる。反面教師ではないが学べたようにも思う。
人間には思考がある。
耳から入って脳内で変換される。
良い方にも悪い方にも。
SNSで拡散される全てのものには発信者の思惑が含まれる。善意のみで拡散されるものなどありはしない。
善意であったとしても受信者の解釈は立場や状況によって変わる。「頑張れ」って文言がいつからか応援ではなく突き放した言い方に変換されたのが良い例だ。
そもそも他者を応援する気持ちが無いと使わない言葉だと思うのだ。
頑張れと言うからには、何かして欲しい。何もしてくれないならそれは突き放してるのと同じではないか?
受信者側にこんな思考があったとして、現状が生まれてるのだとしたら勘違いしてはいけない。頑張るのは貴方だ。元々、貴方以外の人は貴方の頑張りに干渉できない存在なのだ。元々何もできない。だけど、言葉だけでも伝えたい。貴方の頑張りを見守り応援してる人がここに居るよと。どんなに頑張っても貴方の指一本動かす事はできない。貴方を動かすのは貴方自身でしかないのだから。
話が逸れた。
今作のギミックは主人公が異分子なとこにある。
彼を追うから彼目線で見るけれど、彼の行動は乱す者に他ならない。
だけど観客は彼の思考を追う。
彼には彼を肯定する理由があって、それが澱みなく繋がってもいる。この摩訶不思議さ。
人が分かり合えない根拠を示すかのようだ。
銃撃戦が始まって面食らうけど、この街自体を不当に支配する悪徳警官のようにSNSで拡散されたようだ。
それが大国の全土を席巻する人種差別や警官の不祥事、暴力などと相まって、不正を正そうとする正義の輩が襲撃にきたらしい。
まぁ、この辺はいくら何でもと思いもするが、思い込み+過度な正義+銃社会なんてものが複合的に生み出す可能性でもあるのだろう。
劇中ではテロなんて言葉でまとめられてもいた。
主人公のラストは何故か裕福になっていて…それでも幸福ではない描写が続き、全身麻痺だわ、最愛の人が寝取られて妊娠してる様を強制的に見せられ拒否権すらないし、介護はされるも孤独でしかなく、最大の不幸はそれでも死ねないって事かしら。生きてる意味も意義もないのに生かせられている。…なんか日本語変だな。
結局のところ、何を見せられてんだと困惑もするが、こうやってレビューなんかを書いてるとよく出来た脚本だったなぁなんて事も思う。
空想上の事など一つもなくて、全て現代にあるものでホラーに仕立てあげたし、ホラーだなぁと思えたので。
ラストの引き絵も意味深だったなぁ。
点在する街の明かりだったのだけど、それぞれの街で異なる阿鼻叫喚が渦巻いているような印象だった。
「NO PEACE」…まさになぁ。
アリアスター監督の正体が現世を混沌に陥れる悪魔だったとしても納得しかしないなぁ。
…そんな作品。
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