「なるほど炎上スリラーではある」エディントンへようこそ 弁明発射記録さんの映画レビュー(感想・評価)
なるほど炎上スリラーではある
アリ・アスター監督作は『ミッドサマー』『ボーはおそれている』に続き三回目の体験。
今回も結構面白かった。
ただ、色々詰め込みたかった気持ちは分かるがちょっと長い。全体的にもう少しカットして120分以内にできた気はする。特に前半の立候補するまでのあたり。
- 市長選で争いが激化して互いに殺しあうような展開を予想していた。実際は保安官フェニックスが市長を殺してその罪を黒人部下になすりつけようとする展開だった。完全犯罪サスペンスコメディみたいな展開だった。
- しかもそれからさらに進むと後半では謎のヒットマンと銃撃しながら逃げる展開になりなかなか先が読めない感じになるのが良かった。
- しかもラスト、保安官は市長にはなれたが身体がまったく動かず車椅子で要介護の体になり。介護士に風呂に運ばれる場面でチンコが映りこのスタイルの映画ならそれもいいんかと学ぶ。元妻は逃げたカルト教祖男との間に子供をもうけその映像を観てうなることしかできないという。さらに陰謀論大好きな義理母が介護してくれるものの介護士の男とイチャつかれる夜。そして濡れ着を着せられた上に殺されかけた黒人部下は(おそらく主人公を殺す為に)ずっと銃撃の訓練を続けている、というラストカット。この皮肉だらけのラストは監督のこだわりを感じた。
- 結構登場人物が多くて説明する必要があることも多いから、結構、前半、最初のほうはやっぱり長い。この街がどういう街で、市長が誰で、保安官はどれくらいのポジションかとか。コロナ禍の今どういう状況かっていう説明に時間をかけてる感じがするんだよな。それで結構時間を使ってて、だから最終的な上映時間が長くなった感じがやっぱりある。
- あの終盤の暗闇の追いかけっこで、主人公を攻撃してきた奴は、結局誰だかは示されないってことなんだよね。なんかネットでも調べてみたんですけど、やっぱり明確にされているわけではなくて。まあ、ここはまあ、ぼかされていると。で、まあ、思うにやっぱりこれは、結局どういう形であれ暴力で人を殺す奴は、何かしらの暴力の連鎖を引き起こして、自らが相手の顔が見えない暴力で追い詰められるんだよ、と。そういう話なんだな、とは思った。
- 市長対保安官の戦いが続く予想だったから、保安官がすげえ長距離から射撃の腕で、速攻で市長を打ち殺したのちょっとそんな暗殺者展開かよって笑うところで。子供もついでにぶっ殺すのもちょっと笑ったわ。市長宅からモノを盗んで落書きまでして自分以外の犯人を仕立てようとする工作のセコさ。
- バーで酒をあさっていた浮浪者まで撃ち殺してしまう保安官!あの浮浪者を殺したのは自分は単にイライラがたまったからだと思っていたが「コロナなんてねえよ!」という主張の為にコロナにかかったっぽい邪魔者を排除する意味もあったんだな。死体を川に流してこれが後半になんかの伏線になるかと思いきやならず!しかしコロナにかかっていた浮浪者と接触したことでマスクいらねえ派だった保安官がコロナにかかっちまった!という展開を作っていた。
- 奥さん女優が綺麗だと思ったけど、エマ・ストーンだとは分からなかったから、まあ、演技がうまいんだな。しかしこの妻は陰謀論好き母の影響を受けて胡散臭いカルトにハマっていく夫保安官にとっては悲しいポジションだった。
- 映画が終わってから、改めて、日本公開の際の「全てを焼き尽くす炎上スリラー」というキャッチフレーズはうまいなと思った。まあ、あの、SNSで炎上もあるけれど、主に後半の展開は物理的な炎上という意味で、うまいこと言ったなと。ゴミ箱燃やしからの黒人警官さらい燃やしから「NO PEACE」の火文字をドローン空撮までする手際の良さは面白かった。あそこら辺は映画感があった。
- あの「こっちの管轄だ」って言って、主人公を疑ってたあのふとっちょの警官は、何かの民族かと俺は勝手に思ってた。後半で逃げてる時、町の民族資料館みたいなところを通ったこともあって、市長が殺されたのが何かの先住民族の地域だったから、そこの警官が白人警官である保安官フェニックスに怒ってんのかなと思ったけど、全然そんなの関係なくて、あのふとっちょの警官は、単に正義感の強い熱心な捜査官だってだけだったらしい。終盤に攻撃してきた奴らも先住民族関連の奴らかと思った。観る人によってあの終盤の謎の暴力集団が色々な組織に見えるようにしてあるんだな。
- 最後に保安官を助けたかたちになったイケメン青年ブライアンもしょうもない野郎で。デモに参加するのも好きな女にモテたいだけでラストに保安官を助けたのも、たまたま逃げる保安官を見つけただけで、正当防衛で保安官の命を助けたかたちになりラストは他の町で彼女を作ってSNSの人気者になっちゃいました!という人生。SNSの人気者になるような奴は結局主義主張は実はどうでもよくて単に目立ちたくて運がいいだけのクソ野郎なんだぜ!という監督からのメッセージだと受け取った。
- 最後に市長になってから序盤から町民に反対されていたデータセンターが出来上がり。あれも死人が出て新市長は半身不随の中、唯一巨大資本の象徴であるデータセンターだけがしっかりと完成しました、という皮肉なんだな。しかも今後も火力発電や風力発電の計画まであり反対してた住民の声は全く届かない未来が見えるレベルの。
この映画はコロナ禍のアメリカで何があったか多少は知識があることが前提で作られている。かつ皮肉だらけで構成されている。そこを面白いと思えるといいんだけど。
個人的にはかなり面白かったんだけど、なんだかスッキリしねえ〜と思う人もいるのも分かる。
主人公の怯えまくり銃撃戦を見るに、わざとスッキリさせないことを楽しんでる監督だよね。
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