劇場公開日 2025年9月19日

「オトンと私と、時々秘書?」ザ・ザ・コルダのフェニキア計画 ストレンジラヴさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0 オトンと私と、時々秘書?

2025年10月4日
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鑑賞方法:映画館

難しい

驚く

ドキドキ

「祈りを捧げるとき、私は神の答えを予想する。そして神の望むままに行動しようとする。それは大抵当たっている」

舞台は1950年代。武器商人にして世界的な実業家アナトール・"ザ・ザ"コルダ(演:ベニチオ・デル・トロ)は、目的のためなら手段を選ばないその姿勢から敵も多い。暗殺未遂6回、3人の妻とはいずれも死別し、9人の子供と修道女見習いの娘リーズル(演:ミア・スレアプレトン)がいる。彼は大独立国フェニキアで人生の大半を注ぎ込んだ一大プロジェクト「フェニキア計画」を進め、今後150年間の利益獲得を目論んでいたが、政敵の妨害によってリベットの価格が高騰し、修道院から呼び戻した娘リーズルと共に一転して資金繰りに奔走することになる。それは同時に、これまでの親子間のギャップを埋める旅でもあった...。
噂は予々聞いていたウェス・アンダーソン監督に、今回初めて触れることになった。事前に集めていた情報からアンダーソン監督に抱いていた印象は「絵画的」「パステルカラー」「政治的寓話」といったところか。一昔前、所謂"オールディーズ"を舞台にブラックな寓話を映像にするなんてイメージをぼんやりと持っていた。
本作を観て思ったのは、概ね当初の印象通りだったということ。加えてシンメトリーとか対角線の使い方が非常に巧い。タイトルカットのザ・ザの入浴シーンは絵画としても成立する代物で、思わずその耽美に酔いしれてしまった。
しかしストーリーの側からみるとこれがいけなかった。酔った状態で洪水のようにザ・ザが前提情報を捲し立てる。そして蛙の子は蛙とはよく言ったもので、リーズルもまあまあ早口で捲し立てるので、観ている側は思考回路がショート寸前までいってしまう。加えて自分は朝イチの早い時間帯の上映だったため、脳が急激な酸素不足に陥った。ザ・ザが資金繰りに奔走するなか、私は酸素集めに駆けずり回る羽目になったのである。観る側の責任として、これは勿体ないことをしたと思う。恐らく自分が拾った以上にアンダーソン監督は巧妙に話を仕込んでいたと思えるだけに、全部拾えなかったのは残念でならない。
しかしようやくベネディクト・カンバーバッチが登場した辺りでなんとか自分の軌道修正が完了し、最後の結末だけはしっかり捉えることができたのでこちらとしても最低限の仕事はしたと思う。にしても、エンドロールまで絵画やらストラヴィンスキーの音楽やらを仕込んでいたので、信者も相当多いのだろうなと思う。信者からすると本作も「さすがのアンダーソン節!」とか言えてしまうのだろうが、申し訳ないことに私の口からそんな洒落た言葉は出てこない。
しかしながら、それまで利益にしか目がなかった実業家が、アクシデントだらけの旅を通じて本来のビジネスのあり方と人間関係を見つめ直す姿は一見の価値あり。何人か煎じて飲ませたい奴もいるにはいるが、恐らく彼らには伝わらない。

ストレンジラヴ
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