劇場公開日 2025年9月19日

「◇父性とハルモニア(調和)」ザ・ザ・コルダのフェニキア計画 私の右手は左利きさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5 ◇父性とハルモニア(調和)

2025年9月29日
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鑑賞方法:映画館

 冒頭で流れるのは#イーゴリストラヴィンスキー#IgorStravinsky の 《ミューズを率いるアポロ #Apollonmusagète 》 ストラヴィンスキーといえば、変則的なリズムと不協和の重なりを想像しますが、この楽曲の素朴な曲調からは、逆に不穏な旅物語の前兆を感じます。

 ウェス・アンダーソン監督の作品は、常に美しいシンメトリーや精緻な構図で彩られますが、その背景には「父性への憧れ」と「神の不在をどう生きるか」というテーマを感じ取れるかもしれません。

 本作の主人公ザ・ザ・コルダの父親像には、ただ強権的であるのではなく、欠落や傷を抱えながらも、不器用にも守護者であろうとする人間的な厚みがあります。その懐の深さが観る者に複雑な共感を呼び起こします。権力と虚無、父性の威厳と空洞を同時に纏いながら、無謀な取引の旅が続きます。

 その旅に花を添えるのが修道女でもある娘の存在です。白装束の彼女は血縁と信仰、愛情と禁欲という相反する領域を重ね合わせ、父と神を重ねてしまう人間の心理を映し出してます。

 それぞれに矛盾を内包するこの父娘の関係を精緻な対称構図や華麗な舞台装置の中に封じ込めます。しかし、その世界の均整はどこか不安定で、まるでストラヴィンスキー♪の不協和音のように、調和の裏側にある緊張感を際立たせます。

 最終的に、この映画は「父であることの困難」と「神を求める祈りの空虚」、そのアンバランスをシンメトリーな構築美と調和させる高度な物語世界を築いています。

 音楽的な不協和音の中から新たな均衡を見出そうとする試みに寄せて奏でる父性のハルモニア(調和)が漂うのです。

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私の右手は左利き
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