「アンダーソンらしくないアートワーク」ザ・ザ・コルダのフェニキア計画 蛇足軒妖瀬布さんの映画レビュー(感想・評価)
アンダーソンらしくないアートワーク
【アンダーソンらしくないアートワーク】
本作は、ウェス・アンダーソンのフィルモグラフィにおいて、
良くない意味で異色とも言える作品と言ってもいいだろう。
彼の作品に期待される精緻で装飾的な美術セット、
パステル調の色彩設計、対称性のある構図、
そこに真正面からカメラを置く、
横移動、トラックアップいずれも直線的、
そういった〈アンダーソンらしさ〉は、
冒頭のタイトルバックのレンズワークにこそ感じられるものの、
それ以降は意外なほど控えめで、印象に残りにくい。
アンダーソン作品は『グランド・ブダペスト・ホテル』くらいから、
豊富な製作費で世界観を拡張し、
画面の隅々まで遊び心に満ちたビジュアルの作り込みで、
思いのままに観客を魅了してきた。
しかしその一方で、
美術的密度が物語の進行や人物描写を圧倒し、
世界観とストーリーの乖離を感じさせる傾向も見られた。
その影響もあるのか、
人気に陰りが見えたのか、
興収に影響が出始めたのか、
本作は、絞られた予算を逆手に取って、
そのアンバランスさを意識的に反転させようと試みているようにも見える。
物語の中心には、ベニチオ・デル・トロ演じる主人公とその娘、
そしてルパート・フレンド(『ホームランド』ファンには悪役に見えない)率いる敵という、
非常にシンプルな人物配置でシナリオは進行する。
舞台となる世界は相変わらず抽象的な空間だが、
登場人物たちは最小限に絞られており、
ストーリーの軸は明快だ。
しかしながら、
そのコンパクトさが功を奏しているかといえば、
判断は分かれるだろう。
なぜなら、
物語と登場人物が凝縮された分、
今度は美術やプロップ、
小道具類の面白みに欠ける印象が否めないからだ。
美術が平板であるために(平板なりのアイデアが過去作にはあった)、
画面に奥行きが生まれず、
アンダーソン特有の〈見る楽しさ〉が持続しないのだ。
それでも、
ヌバルおじさんのシークエンス以降では、
アンダーソンワールドが本領を発揮する。
視覚的快楽が一気に加速する。
いつものように斜めからの狙いは意図的に排除され、
過剰なプロップの飾りこみ、
その美しさ、大胆さが前面に出てくる。
エンドロールに至るまでの演出は、
まさにいつものアンダーソン作品と言える仕上がりで、
観客の記憶に鮮烈に残る。
が、
本作にはある種の違和感が拭えない。
美術と物語、
予算と演出のバランスを、
キャスト費と美術費の按分を、
良くない意味で模索する段階にあるようにも感じられる。
『ザ・ロイヤル・テネンバウムズ』の頃まで立ち戻り、
小規模の予算の中(邦画でいうと中規模)で、
世界観とシナリオ、
そして美術の緻密な作り込み、
撮り方を一体化させていた時代の手触りを、
もう一度追求してみてもよいのではないか、
あるいは、
徹底してキャストのキャラをデオドラントするか、
それでもキャストの人間臭さが残るなら、
いっそのこと、
犬のようなストップモーションアニメにするか、
そうでもしないと、
世界中のウェス・アンダーソン好きの人たちですら、
離れていってしまう、
そんなことを思わせる作品でもあった。
【蛇足】
昨今のウェス・アンダーソン作品の感想を貼っときます。
下記、
フレンチ・ディスパッチ、、、
の時の感想。
いつもの通り、
ピタゴラスイッチのような、
ドミノ倒し(本編中にあった)のような、
おとぎの部屋や、
ハロウィン・タウンのような、
ウェスの左手の法則のような、
数学的定義に落とし込むべく、
公式を反復させるような、
ギミック、世界観で、
カメラは、
世界地図の図法でいうと、
メルカトル図法のような、
正面が大事!
ビルの屋上から斜めのカットがひとつあったが、
基本は2D風正面!
モルワイデ図法的な正しい面積、方位は不要!
で楽しませてくれるのは今回も同じ。
たが!
いつもは、比較的小さな世界観なので、おもしろいギミックを追いかけていると、ストーリーも自然と腑に落ちていく仕掛けだったのだが、
今回は、
レア・セドゥの巻、
シャラメの巻、
誘拐の巻、
それぞれ世界観がデカイので、
仕掛けを楽しんでいるだけ(ウェス作品は本当はそれだけで構わない。)ではストーリーは腑に落ちてこない。
字幕を読んでストーリーを追うのか、ただただビジュアルを楽しむのか、二者択一を迫られた人も少なくないはず。
そういう人の為に、
後半、エンタメバリバリのシークェンスもやっておきます、と、
プロデューサーでもあるウェス。
作品のジャンルは?
と聞かれると、
ウェス・アンダーソンというジャンル、と答えるしかない。
ノーラン、パク・チャヌク、
タランティーノ、、、その人の存在が、スタイルが、
作品が、そのままジャンルだと言える絶滅危惧種監督。
製作基準点、いわゆるK点(建設基準点)超えの高過ぎる絶品度は相変わらず。
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