劇場公開日 2025年7月4日

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「史劇というよりスパイ・サスペンス映画」ハルビン バラージさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5 史劇というよりスパイ・サスペンス映画

2025年11月19日
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鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

興奮

知的

今年7月に日本公開されたものの地元には来なかったが、なんともうWOWOWで放送され、配信も同時に開始されたようだ。ところがBlu-ray&DVD化は来年2月らしく、そっちは半年後という通常ペース。今後こういう配信と有料チャンネル放送は早めにされるのがスタンダードになるんだろうか? 伊藤博文を暗殺というか射殺した朝鮮の独立運動家・安重根(アン・ジュングン)を描いた映画で、同じ題材で比較的有名な映画に1979年の北朝鮮映画『安重根 伊藤博文を撃つ』(DVD邦題。VHS邦題は『安重根と伊藤博文』)があるがそっちは未見。

うーん、期待してたのとなんか違う。思ったほど史実部分が多くなく、むしろフィクション部分がやたらと多い。公式サイトに載ってる主要キャストの演じる人物で安と伊藤以外の6人のうち実在人物が2人しかおらず、残る4人は架空人物だから安と伊藤を含めた8人のうち半分が架空人物(特別出演のチョン・ウソンも架空人物を演じてるからそれも含めると半分以上)。そしてその架空人物の描写が意外に多く、物語でもわりと重要なポジションだったりして、なんだか歴史映画というよりスパイ・サスペンス映画みたいになってしまっている。

単純に映画としての出来は悪くなく、暗く重苦しい雰囲気の社会派スパイ・サスペンスといった感じ(安重根らは別にスパイではないが、仲間の中に日本側に籠絡された密偵が潜り込んでいるという設定で、そいつをあぶり出すスパイ映画みたいなエピソードが物語で大きな位置を占めている)で、なんとなく中国のチャン・イーモウ監督のスパイ・サスペンス映画『崖上のスパイ』にも似てる。おそらくかなり大規模な予算をかけて海外ロケなどもされていて、日本映画ではあまり見ないような壮大なスケールの大作となっており、韓国映画にももうこんなに差をつけられたのかと痛感させられた。

その分、歴史描写がやや希薄で、あまり歴史にくわしくない人には状況が今ひとつわかりにくいんじゃないだろうか。伊藤博文役のリリー・フランキーは特別出演に近く、そこまで出番は多くないし、抗日映画色もさほど強くない。リリー以外の日本人役は韓国俳優が演じており、聞き取れないほどではないもののイントネーションが外国人のしゃべる日本語だからか日本語字幕が付けられている。配給会社はそこだけ付けるのは不自然と思ったか、なぜかリリーの日本語にも字幕が付けられていた(笑)。あと、日本人が安重根を「アン・ジュングン」と言っていたが、当時は「あん・じゅうこん」と言っていたはず。ただ途中でそんなことどうでも良くなってくるくらいフィクション部分が多く、たとえ抗日映画色が強かろうとももっと史実に即した史劇映画が観たかった。うーん、『安重根 伊藤博文を撃つ』のDVD買おうかな?

バラージ
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