「好意はどこから暴力になりますか」平坦な戦場で KaMiさんの映画レビュー(感想・評価)
好意はどこから暴力になりますか
男子高校生(野村陽介さん)が中年の孤独な女性と偶然出会い、肉体関係を求められる。その結果、順調だった高校生活や恋人(櫻井成美さん)との関係が狂い始める。
最初は同情心もあり、また男性としての欲求も少しはあったのかもしれない。が、恋人と接すると中年女性のフラッシュバックが襲ってくる。母親のような女性の制服姿を想像しながら嘔吐するシーンが生々しい。男性側の「性被害」の心理が描かれた珍しい映画だ。
性別を入れ替えて考えれば、年上の男性から求められることが若い女性にとってどれだけ気持ち悪いことなのか、ありありと学ぶことができる。
しかし単に「キモイおじさん」問題を「キモイおばさん」に広げるだけで話は終わらない。男子高校生が同級生を値踏みするように、映画の中の女子高校生も佐藤健のドラマにキャーキャー言いながら、「想定外」の同級生を陰で笑いものにしている。
好意を持つこと自体は自由だが、年少者へ向けられる欲望や、お金を介した関係は人権侵害になりうる。しかし純粋な好意を笑いものにするのも暴力的だ。そのようなやるせない現実を、誰かを悪者にすることを周到に回避し、いろいろな角度から描く。
後半、男子高校生は性的不能を「恋人を傷つけずに」克服するため、別の同級生をお金で買う(買われた側が、買う側に移動したわけだ)。それら一連の過ちを、恋人に正直に告白する。結局は恋人を何重にも困惑させる、幼い行動だ。
一方、恋人は破れかぶれの行動のあとで不思議な成長を遂げる。男子高校生の告白を「いい話じゃないから聞きたくない」と遮りつつ、朝食のパンを分かち合い、最後は「傷ついたとしても一緒に考えたかった」と諭す。
男子とは比較にならない、なんという精神的成熟ぶりだろう。
櫻井成美さんの演技に拍手しつつ、結局は女子高校生という弱者の立場だからこそ、赦しの言葉に説得力があるようにも思った。男性が「傷つけあいながら一緒に考えよう」と言うわけにはいかないから。
