旅と日々のレビュー・感想・評価
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原作を知っていれば、もう少しは?
三宅唱監督の新作であり、“みんな大好きシム・ウンギョン”主演、さらに“みんな大好き河合優実”も出演とあらば観ないわけにはいかない。と言うことで今週の1本目、公開初日にTOHOシネマズシャンテにて鑑賞です。
毎度の如く、劇場でトレーラーを数回観ただけであらすじなどの前情報は入れずに鑑賞したわけですが、観終わってから本作が「つげ義春氏の二つの作品が原作」と知り、「なるほど、それでこういう…」とようやく合点がいきました。シンプルな構成ではありますが、知らずに観ればちょっとしたギミックのように感じる設定は、前半、繋ぎとなるブリッジ、そして後半と大きく三部構成。本作の主役・李(シム・ウンギョン)の職業を利用し、基となる二つの原作を“異なる世界線”として成立させ、それらを繋げるブリッジを挟んで一つの物語に仕上がっています。そして、それぞれの世界線に共通するのは旅先における出会い、経験、そして旅情。日常ではない“浮つき”に魔が差すように起こる出来事が“ストーリー”になっていきます。
若い頃から変わらず、どんな役にも染まれるような“奥行き”を感じさせるシム・ウンギョンさんに対し、河合優実さん、佐野史郎さん、堤真一さんなどそこにいるだけで強い“存在感”を感じさせる組み合わせはナイスキャスティングだと思います。特に後半における堤さん演じるべん造は「ズルい」と言いたくなるほどに可笑しな存在で、そのキャラクターのまま“李の仕事”に口を出す様を見、そのセリフを聞けば、いつしか堤さん自身が重なって見えてしまい、李との掛け合いは最早コントを見ているようです。
ただ、本作(全体として)をどう評価したらいいか戸惑っているというのが正直なところ。鑑賞中、時より李の職業柄に出るメタ的なセリフなど“遊び心”を感じさせる演出に、何度か「ホン・サンスっぽい、かな?」とも感じましたが、或いは単にシム・ウンギョンの存在と言葉(セリフ以外の部分で使われる韓国語)に影響されているだけかもしれないし、、何と言っても、前半と後半のギャップが相当に大きくて私にはとても埋めきれず、観終わってもイマイチ腑に落ちない印象。勿論観ている私自身の力量不足だとは思いますが、そもそもつげ義春氏の原作を知らなければ、言わんとするところの“真理”にはたどり着けないのかもしれません。
いやぁ、決して嫌いではないのだけど、ちょっと難しかったな。。実にまとまらずスミマセン。負けました。
そこに無いものは見えない。だから、そこに在る『無』をシッカリ観る
劇中映画、中指の包帯(怪我)にはシンボリックな意味があって、河合優実の水着姿をいっそうエロティックに見せておりました。眼福です!
あとは、なんにも無かった。って怒られるよね。つげ義春ワールドの形而上学、観念世界は広大無辺の曠野です。これを毀損するものは許さん!というファンの圧力がある。まあ、欧州では神扱いだし、スイスで貰った賞もあるし。だけど、さも深淵なる意味有り気な思わせぶりで、俗人を惑わせるのは如何なものかと。
この旅で、シム・ウンギョンが何か収穫らしきものを得たのか?“日々旅にして旅をすみかとす”的なもの?。この尺ではどうなんだろう? 凡庸なる当方は錦鯉は旨いか不味いかのトピックぐらいしか思い当たらないのだが………
シム・ウンギョン×堤真一の掛け合いも評判ほどではなく、期待していた、いろんなモノが見えて来ず、ただ『無』を認識しただけの上映時間だった。
追記
欧州の映画賞受賞を引っ提げての公開であらゆるメディアが褒めまくるのは妥当な経緯だが、言葉を探して探して、持ち上げているのは見苦しくて、息がつまる。シム・ウンギョン起用が生かされておらず、つげワールドの理解も足りない。こんにち『この意味わかるかな~』なんていう語り口は果たして是か?
三宅唱監督の新境地
三宅唱監督の待望の新作。主役も「新聞記者」で鮮烈な印象を与えてくれたシム・ウンギョンが、韓国から日本に来て脚本家をしている李(シム・ウンギョン)を演ずる作品で、いずれにしても期待の一作でした。
物語は、つげ義春の2本の漫画、「海辺の叙景」と「ほんやら洞のべんさん」をベースにしていました。いずれも”旅”を題材にした作品でしたが、「海辺の叙景」は李が脚本を担当した劇中映画の体裁で、ここには今年も絶好調の河合優実が主役として登場し、無類の存在感を発揮。神津島に旅に出た2人の若者が、何処となく”死”を意識させる寂しげなお話でしたが、この劇中映画はここだけを短編として切り出してもひとつの作品となるほどのクオリティの高さでした。
「ほんやら洞のべんさん」の方は劇中映画ではなく、スランプに陥った李が山奥の温泉宿に旅行し、民宿(と言えるのか?)のオヤジ・べん造(堤真一)と寝起きを共にしながら泥棒体験をするというお話。「海辺の叙景」同様、互いの身の上とか思いを語り合う姿は、時折ユーモアを交えつつも人間心理の本質をついていて、それでいて結論を出さないところが極めて上質でした。
以上、つげ義春の原作をベースにしてはいるものの、ストーリーとしては独自の世界観というか雰囲気を醸し出していた作品でしたが、これまでの三宅監督の作品とはかなり味付けが異なっていたように感じました。「ケイコ 耳を澄ませて」や「夜明けのすべて」は、ハンディキャップを背負って生きる主人公の生き様を描いており、かなりストレートに観客にメッセージを放って来る感じがありました。一方本作はそうしたスタイルとは対照的に、作品全体の空気感を伝えることで、観客それぞれに解釈させることを誘っているようでした。
別の見方をすると、直近で同じく”旅”をテーマにしたホン・サンス監督の「旅人の必需品」を観たこともあり、また主演が韓国人俳優だったことも手伝って、作風がかなりホン・サンス風だったなとも感じたところでした。
俳優陣では、シム・ウンギョンや河合優実が良かったのは言うまでもないのですが、べんさんを演じた堤真一のなり切りぶりは流石でした。正直何を言っているのか理解できない部分もあった方言も良かったし、久々の客に舞い上がっておかしな行動に踏み切ってしまうべん造の滑稽さも見事に表現出来ていました。今年は「室町無頼」にはじまり、「木の上の軍隊」、「アフター・ザ・クエイク」など、時代劇から戦争物、現代劇に至るまで八面六臂の大活躍は大いに評価すべきところでしょう。
一点本作の難を挙げるとすれば、べん造が李を引き連れて鯉泥棒に行った際、李がカメラを落としたのに気付かなかったこと。首から下げていたカメラを落として気が付かないという設定はいくら何でも不自然。結局これが原因でべん造は逮捕されてしまうことになった訳で、あの下りはかなり釈然としない部分でした。何か他に見方があったのでしょうか?
そんな訳で、本作の評価は★4.2とします。
鄙びた宿の主人と、書けない脚本家の時間を超越したような空想譚。
とても風変わりな映画でした。
妙な味があります。
ロカルノ映画祭で最高賞の「金豹賞」と「ヤング審査員賞」を
W受賞したことと、
授賞式で河合優実が涙を流した。
この2点で、とても期待して観に出かけたのですが、
優実ちゃんの涙は何だったのでしょう⁉️
寒そうな大荒れの海で波に飲まれそうになって泳いでましたけれど、
死ぬほど寒くて、荒れてて怖かったことを思い出したのかしら?
①パート1、
つげ義春の「海辺の叙景」が原作です。
小さな画面、スタンダードサイズ(1.33:1)とかです。
前半の夏のパートと、後半の冬のパートに分かれていて、
河合優実は、夏パートの、主人公の脚本家のシム・ウンギョが
脚色した映画の中の主人公の女性です。
海辺で一人の青年と会話を交わして、台風みたいに荒れた海で泳ぐ。
この映画では女の子と青年の心理描写は特にないのです。
青年は沖に流されたのか?
泳いでいってしまったのか?も生死も不明。
②パート2は、
同じく“つげ義春“の漫画「ほんやら洞のベンさん」が原作です。
「冬の温泉宿の旅」をするシム・ウンギョさん。
アポ無しで宿に泊まれずに遥か山を登り、
廃屋みたいな営業してないみたいな宿に泊まる話し。
寂れた温泉宿の主人が堤真一です。
ロケ地は庄内地方のあつみ温泉らしいです。
このパート2の方は、パート1よりストーリー性があり、
温泉の主人は、妻と幼い娘に逃げられたらしく、
妻は大きな庄屋のようなお屋敷に住んでいて、
そこの川の二百万もする錦鯉をべん造さんが
盗みに行って警察に通報されたりします。
幼い娘が家から出てきて「お父さん、何してるの?」と聞くと、
「大きくなったなぁ・・・」などと頭をなぜたりします。
夏のパートのロケ地は神津島とか、前浜海岸、名組湾とトロッコ湾・・・
などで、かなりロケ地は広範囲に渡り風景には拘り抜いた様子です。
映像は美しいかと聞かれればば、夏のパートは異国風というか
“韓国とかかなあ?“と思ったりもする
ごつごつした岩肌の崖とか、見たこともないことのない
景色もありました。
つげ義春さんは旅と「鄙びた温泉」が好きだったそうです。
あと「蒸発」に興味があり、鄙びた温泉に住み着いたりしたとか。
とても古びた写真を見ているような映画でした。
食べるシーンが多いのですが、うどん屋の温かいうどん以外は
謎の食べ物ばかりでした。
例えば海辺で青年が女の子に勧める海女をしている
祖母の作った「みつ豆」
(磯の香りがするそうです)
「ほんやら洞」の食事はすこぶる粗食でした。
でも方言をくぐもって話す堤真一さんのべん造は、
何とも言えずに趣があり流石に堤真一さんでした。
シム・ウンギョさんは、いつも思うのですが、
日本人には絶対に出せない何か、があるのですね。
河合優実ちゃんは、ただ存在するだけで、その人の人生を感じさせる
不思議な魅力がありますね。
見事なショットの連続
これは森を散歩しているとき、ぼんやり歩いているだけでは何も見えないが、こちらの気持ちが整ってくると、森の中にあふれる音や小動物の気配や植物の変化…が見えてくる、あの体験を味わうことのできる映画。
いきなりオープニングの小津『秋刀魚の味』を思わせるショットでノックアウトされたのち、『千と千尋』を下敷きにしたような無気力に車の後部座席で外を見上げている河合優美、だんだん暗さを増してくる夜の高台で言葉を交わす2人、大きく波がうねる灰色の海で泳ぐ男と女、等々、等々…。
こうしたショットやシーンは、簡単に画面に映っているのでは決してなく、周到に計画して、すぐれた撮影・照明・美術・照明を組織しコントロールして、そのうえで現場で幸運な偶然を呼びこむことのできる、ごく一部の監督にしか撮れません。
そういう細部をきちんと見るのが「映画を見る」ということなのだな、と改めて気づかせてくれる静かな作品です。
寝ずに夜中働く、働かせるのはやめよう。
じわじわマニアに人気が出始めて、自分の実力のなさ(と言う思いに取り憑かれた)に追い詰められた頃のつげ義春作品2本を合体した話。とは言え、つげ義春世界再構築は目指してはいないようで、、、なんだか行き詰まりを感じている人間、やりたい事の見つからない人間、自分に自信が無い人間、もう死んじゃうってのもアリかな、、などと考えてる人にそう、そもそも人間ってこうだよな、なんの役に立たなくても生きてていいんだなって逃げ道を提示する映画です。だから映画的インパクトないけど今の世界と人間にマッチしているのかも知れません。
目標を失った若者、ダメな脚本家、ダメな旅館の主人、生きてるだけで丸儲けだよ。
ウクライナやパキスタンで毎日のように殺し合いが続いているのに、優秀な俳優が寄って集ってダメ人間の世界観を作りあげる行為が評価される世の中は、自由で幸せな世界ですよ。こんな荒れた世界だからこそムダな事の価値が上がっているのかも知れません。
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