劇場公開日 2025年11月7日

「言葉探しの旅」旅と日々 kozukaさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0 言葉探しの旅

2025年11月25日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

知的

癒される

言葉についての映画なのだが、劇中の言葉としての物語はほぼ無いといっていい。
前半の夏の海で若い男女(高田万作、河合優美)が出会うパートは日本で仕事をする韓国人の脚本家、李(シム・ウンギョン)が脚本を描いた劇中劇。後半は脚本家の李が冬の雪国を旅するパートの2部構成となっている。
どちらの旅もセリフは少なく物語性はほぼ無く、海、風、嵐、一面の銀世界、しんしんと降る雪、鄙びた宿、偶然の出会いといった旅の情景や体験が淡々と描かれる。つげ義春の漫画が原作で、夏は「海辺の叙景」冬は「ほんやら洞のべんさん」を元にしている。そもそもつげの漫画も劇的な展開が希薄なので、原作通りといってもいい。
旅とは日常(日々)からの解放で、言葉からの解放でもあるのではないか。旅の本質とは体験であり出会いであり、醍醐味は想定外のアクシデントだ。思い出して欲しい、友人に旅の話をする時、話したくなるのは決まってアクシデントの話だ。
映画でも夏の海に行ったのに台風に遭遇してしまったり、大雪の中どこも宿が空いていなかったり、泊まれたのはとんでもない鄙びた宿でとんでもなくおかしな主人だったりとアクシデントの連続で、これこそ旅だ。
主人公の李は夏の海の映画上映会のあとのインタビューで「自分の才能に自信を持てていない」という。三宅唱監督が脚本家を韓国人にしたのは外国人からの目線で日本語という形ではなく言葉の本質を見つめるためではないか。李は自信のない言葉の本質を見つけるために旅に出る。
体験に基づかない言葉は薄っぺらい。今、日常は表層的な言葉に溢れている。そうした言葉から解放される旅に出たい。そういう感情が湧き立てられる映画だ。

kozuka
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