「つげ義春の世界観を美しく描き切った作品」旅と日々 Toruさんの映画レビュー(感想・評価)
つげ義春の世界観を美しく描き切った作品
つげ義春の「海辺の叙景」「ほんやら洞のべんさん」 の2作品が原作ということに惹かれて鑑賞。
主演のシム・ウギョン、助演の堤真一、河合優実、高田万作、佐野史郎らが好演。特に堤真一の方言による台詞回しが印象的。
河合優実が演じる渚と高田万作が演じる夏男の海辺でのシーン、美しい映像の中で二人が淡々としながらも心を通じ合わせるところに、まず引き込まれる。
そしてシム・ウギョン演じる主人公の脚本家、李が訪ねた雪に閉ざされた山里、堤真一演じるおんぼろ宿の主人べん造とのやりとりが、不思議な心地よさを感じさせてくれる。
目的のない旅、そこで訪ねた美しい海、そして雪に閉ざされた山里、どちらもひたすら美しく描かれ、そこで出会い、ごく少ない触れ合いの中で気持ちを通じ合わせ、安らかな心を取り戻していく。
これといったストーリーはないが、その映像は、つげ義春の世界観を監督独自の視点で、極めて美しく描き切っている。
それぞれのシーンにおける役者たちの台詞の間がとても気持ちよく、時にほっこりとしたシーンもあったり、観るものを癒し続けてくれる映画。
ただただスローな流れで進み、夢の中にいるかのような幻想を抱かせてくれる時間。歳を重ねるなどして、ゆっくり進む時間の良さを感じられるようになってこそ、浸ることができる映画。
起承転結で予定調和な商業映画とは対局にある、心に染みる映画芸術の世界。
第78回ロカルノ国際映画祭にて、インターナショナル・コンペティション部門の最高賞である金豹賞、ヤング審査員特別賞を受賞したことが頷ける。
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