劇場公開日 2025年11月7日

「傷ついた言葉」旅と日々 紅の猫さんの映画レビュー(感想・評価)

3.5 傷ついた言葉

2025年11月17日
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鑑賞方法:映画館

日本では、傷ついた時にどうして東北へ行くのだろう。
険しい山、硬く締まったように感じる海、朴訥な人々、突き放されているようで見守られているようなそんな感覚が傷心の人びとを招くのだろうか。

この映画は主人公である脚本家の李(シム・ウンギョン)は自身に迷いがある。自分が書いた
脚本に自信が持てず才能が無いと自嘲する。
彼女が書いた脚本の映画世界は暖かく気候の良さそうな島なのに台風で大雨が降り、大風が吹き、海は荒れ、魚の死骸や土左衛門により死が想起される。
冷たい世界。彼女は映画の中に自分を観ている。
恩師が亡くなり形見として貰ったカメラを持ち旅行に出ることを思い立ち山形へ。
雪の積もる山形は風が強く寒いが、手に取った雪は白く冷たく優しい。
そこで出会う宿屋の主人(堤真一)は何があったか詳しくは語られないがいろいろあったようで時の止まったらような茅葺き屋根の家で 1人で宿屋を営んでいる。
人生を達観しているのかと思ったがそんなことはなく、本当にしょうもない親父である。
しょうもないが人の温もりを感じさせてくれる。

李はこう独白する。「日本に来た時の驚きや恐怖はなくなり、感じたことは全て言葉が追いついた」(この引用は正確じゃないと思うがこんなかんじのこと)。
脚本家であるということもあるだろうが彼女は言語による観念的な視点で世界を見ている。シム・ウンギョンはそんな李の姿をよく演じている。
全てに言葉が追いついたと言う割には、彼女は自身に関わるごく簡単な質問に答える際に言葉を詰まらせ即答できない。言いたいことがあるのに言葉に出来ない。
この映画には日本語、イタリア語、韓国語、山形弁、そして李の韓国人として第二言語として学んだ日本語が存在する。
李が感じる言語的で観念的な混乱を山形での触覚と行動の体験が回復させる。
観客も彼女と同じように五感を刺激され記憶にある自然世界の感触を思い出すだろう。

彼女は自分で思うほど自分を言葉に出来ていない。
自分が何であるのか。
それを見つけられる気がするから人は旅に出る。

紅の猫
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