「夏と冬 虚と実 ユーモアと悲哀 雪景色と鯉泥棒 見事な対比」旅と日々 野川新栄さんの映画レビュー(感想・評価)
夏と冬 虚と実 ユーモアと悲哀 雪景色と鯉泥棒 見事な対比
2025年映画館鑑賞109作品目
11月15日(土)フォーラム仙台
レイトショー1500円
原作は『無能の人』『ゲンセンカン主人』『ねじ式』『リアリズムの宿』『雨の中の慾情』のつげ義春
監督と脚本は『きみの鳥はうたえる』『ケイコ 目を澄ませて』『夜明けのすべて』の三宅唱
ロケ地
東京都神津島村
前浜海岸
名組湾
返浜
神津島村郷土資料館
ありま展望台
山形県鶴岡市
じょい食堂
国見山玉川寺
スタジオセディック庄内オープンセット
あつみ温泉街
秋田県
由利高原鉄道
奥羽本線はイメージに合わなかったのだろうか
粗筋
つげ義春の漫画『海辺の叙景』を原作に映画の脚本を書いてほしいという依頼を引き受けた韓国人脚本家李
映画は完成し大学で公開された
映画監督らと共に上映会に出席した李
大学生の質問に「自分は才能がないと思いました」と心情を吐露
そんな矢先に大学教授の魚沼が病気で急死
魚沼の双子の弟からカメラを形見分けされる
脚本家として壁にぶち当たっていると感じた李は無計画にぶらりと列車に乗り雪降り積もる山形へと旅に出た
予約がないのでどこの温泉ホテルに泊まることもできずホテルの従業員の勧めで地図にも載っていない山奥の民宿に泊まることにした
食事は一応は出してくれるが粗末なものでサービスらしきものは一切なかった
客は李が久しぶりだった
民宿の者は無気力でヒゲヅラの中年男性1人だけ
名はべん造で流行るわけがなかった
それでも李はなんやかんやでその民宿でしばらく過ごした
しかしべん造が別れた妻の実家に忍び込み鯉を盗み逮捕された
べん造は警察から戻ってくることなく夕方の列車で東京に帰ることにした李
この作品の原作となったつげ義春の作品は『海辺の叙景』『ほんやら洞のべんさん』
前半の劇中劇が『海辺の叙景』
雪国の山小屋で過ごす羽目になる話は『ほんやら洞のべんさん』
主人公がなぜか日本で活動する韓国人の脚本家というのもまた不条理な日常
李という韓国ではありがちな苗字もおそらくつげ義春の作品『李さん一家』のオマージュだろう
つげ義春の代表作といえば『ねじ式』
日本の多くのクリエイターに影響を与えた
僕も初めて読んだ時はそのアートぶりに衝撃を受け感動したものだ
「は?なにこれ?わかんない?気持ち悪い」と感じた人はそもそもこの映画鑑賞は全く向いていない
原作が合わないんじゃ映画もまず無理に決まっている
原作の2作品は『ねじ式』に比べたらかなり「ソフト」だ
『ねじ式』は夢の中での出来事をなんとか思い出したもので2作品は実際に体験したことを元にしているのだろう
ロカルノ国際映画祭金豹賞(グランプリ)受賞
邦画では2007年の小林政広監督『愛の予感』以来
邦画では他に1954年の衣笠貞之助監督『地獄門』1961年の市川崑監督『野火』1970年の実相寺昭雄『無常』
ロカルノといってもあまりピンと来なかった
世界三大国際映画祭というとカンヌとベネチアとベルリンだがロカルノも公認の映画祭
ロカルノはスイスでスイスといえばドイツ語だがそこはイタリア語圏の地域
もう少し大きく取り上げられてもいいはずだが東京のマスコミ関係者の殆どは文化水準が低いんだろう
シム・ウンギョン主演と河合優実出演以外ほとんど情報を入れずに鑑賞した
そのためか堤真一がべん造を演じていることに気づくのに時間がかかった
声と喋り方は間違いなく堤真一以外あり得ないのに
顔も声もイケメンなベテラン俳優の彼ではあるがこんなさえない汚らしいおっさんも演じきる名優ぶりに感心した
警察に連行される悲哀ある背中がまた良い
夜の海で夏男と渚が会話をするシーンがあるがリアルを追求したのか暗すぎる
好きか嫌いかと言えば自分は嫌いだ
河合がビキニ姿になるのだが意外と胸がある
あっちこっちから寄せてきたのかもしれないが
陽気な女子がビキニになるとマガジンっぽくなるが陰キャだとにっかつロマンポルノっぽくなる
どこか影があるとはモノは言いようだがそもそも影くらいみんなあるでしょう
因みに返浜は遊泳禁止である
シム・ウンギョンのキャラが良い
なんか癒される
風でニット帽が飛ばされたり右足の靴下の穴で親指が出ていることを見つめていたり雪の帰り道をぎこちなく歩いたり
日本語がすっかり上手になり「左様でございますか」?とか鯉泥棒のべん造を「勘弁してください」と咎めたり
べんぞうやを漫画のネタにしたらどうかという提案を受けて色々質問したら今度は向こうが不機嫌になりたしか「さしでがましいことを聞いてすみません」とか謝るシーンもユーモラス
その全てが愛おしい
決してバカじゃないけど抜けた感じが良い
彼女の生まれつきの才能かもしれない
こうしてみるとやはり『新聞記者』はミスキャストだった
プロデューサー側はいろいろ言い訳しているがその全てが理屈に合わないし嘘くさくてありえないしどう見てもでまかせだ
どのマスコミもあまり追及しなかったがそれが不思議でならない
配役
日本で活動する韓国人の脚本家の李にシム・ウンギョン
李が脚本を書いた映画のヒロインの渚に河合優実
映画の中で海辺で渚と出会う青年の夏男に髙田万作
映画のプロデューサー?に斉藤陽一郎
映画監督?に松浦慎一郎
山形県警の警察官?に足立智充
山形県警の警察官?に梅舟惟永
講義の一環で学生たちと一緒に映画鑑賞する大学教授の魚沼に佐野史郎
魚沼の双子の弟に佐野史郎
客が来ない山奥の宿「べんぞうや」の主人でものぐさのべん造に堤真一
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