劇場公開日 2025年11月7日

「もっとずっと見ていたかった」旅と日々 cinemackさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5 もっとずっと見ていたかった

2025年11月13日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

笑える

癒される

これは面白かった。かなり好きな映画だ。
観終わって、おだやかなものに満たされ、少しほんわかしている自分がいた、、ラストは雪の景色なのに。
原作のつげ義春の漫画「海辺の叙景」「ほんやら洞のべんさん」を知らなくても十分楽しめるが、知っていればなお面白い。かなり面白い。
漫画とは人物や設定を変えてあるものの、画面の空気感や構図、会話や時間の流れ具合から〝つげ的〟なものが立ち昇り、つげ義春ファンなら何度も「むふふ」となるだろう。逆につげ作品にはまったく惹かれないし面白いと思わないという人には、さして何も起こらない退屈な旅の映画、と映ってしまうかも…?

映画は序盤の青い「海編」と白と灰褐色の「雪国編」に分かれ、「海編」は劇中劇的扱いになっている。その対比も鮮やかで面白いが、海辺でも雪国でもさりげなく挿入される俯瞰のロングショットがいい。最近はこういう画がなかなか観られない。そして内心(うひゃっ)と嬉しくなったり、(おぉっ)と一瞬の興奮を呼ぶようなシブいショットがいくつもあるのだ。
撮影は三宅監督の前二作『夜明けのすべて』『ケイコ、目を澄ませて』でも組んだ月永雄太氏で、本作でもかなりいい仕事をしている。とくに「海編」の雨降りで暗く荒れた海を少年が泳ぎ、水着のまま傘をさした女がそれを見ている場面……「雪国編」の重く湿ってすべての音を吸い込むような夜の雪景色……は印象深く、室内でも暗さを厭わずに光源(照明)を感じさせない自然な画面が心地よかった。

俳優陣もいいぞ。主演シム・ウンギョンは『サニー 永遠の仲間たち』『怪しい彼女』からのファンだし、不器用ながら持ち前の人のよさとユーモアがにじむ好演。「海編」の河合優実はいまいちばん目が離せない女優だ。つげ作品には、少女なのか大人なのか正体不明でふしぎに色っぽい女性が登場するが、雨の中水着姿で黒い傘をさす河合ちゃんは、まさしくつげさんの世界の住人になっていた。
シムさんも河合ちゃんも、私はもっとずっと見ていたかった。それだけ自分には心地よい時間が流れていたんだと思う。つげ作品を読むとまどろむような白昼夢を見ているような気分になることがあるが、鑑賞中もじつは、一緒に行った気の合うシニア男女3人ともすこし眠気に襲われている(^^);; それは断じて退屈とは違う気持ちよさのせいである笑
あ、ぼろ宿の主人べん造の堤真一もすごくいいぞ。正面からの表情はほとんど撮られていないが(たぶん意図的に)、庄内弁?もハマり、可笑しさのなかにもほのかな哀しさをにじませ、好演。適役でした。

自分が観た日は上映後三宅監督とシムさんのご挨拶とQ&Aタイムがあり、最後に手を上げた私の質問にも丁寧に(現場でのアドリブや偶然撮れたショットの話も)答えてくれました。

cinemack
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