「否定と再生!」旅と日々 詠み人知らずさんの映画レビュー(感想・評価)
否定と再生!
前半は退屈だった。つげ義春の「海辺の叙景」が劇中劇として映像化され、入れ子になっている。日本人離れした肢体を持つ若い女優さんが美しい。しかし、何も起こらず、不安が渦巻くばかり。ところが、原作を脚本化した韓国人の李さん(シム・ウンギョン)が、映画を志す学生に、この映画のことを問われて「私には才能がないな」と言う。え!これって、この映画の否定ではないか。ベートーヴェンの交響曲第9番の第4楽章で、前の楽章を「このような調べではなく」と言うみたいに。じゃあ、次に「合唱」の「喜びの歌」に相当する部分は始まるのだろうか。
李さんは、後半、山形県らしい雪に覆われた山奥の一軒家にたどり着く。まるで、斎藤清の版画に出てくるような情景が今の日本で残っていたなんて。この部分は、同じつげ義春の「ほんやら洞のべんさん」を元にしているようだ。私たちは、つげ義春ならば、東北の鄙びた温泉を期待するが、映画作家はわかっていて、それには応じない。ここでも、何かが起こるわけではないが、李さんは、その後、宿の主人ベン造(堤真一)に「久しぶりに、楽しいと思いました」と言う。
これまでスランプだった李さんは、大学ノートのような真っ白の帳面に、一字一字、鉛筆でハングル文字を刻む。その時、彼女の顔は、それまでと違って、一瞬、輝いているように見えた。
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