「創作の旅」旅と日々 ありのさんの映画レビュー(感想・評価)
創作の旅
スランプに陥った脚本家・李が新作のアイディアを求めて一人旅に出る…というドラマであるが、映画前半は彼女が書いた作品を劇中劇で再現するという入れ子構造の構成になっている。
その劇中劇は、孤独な若い男女が海岸で出会う…という話で、若い女を演じた河合優美の何とも掴みどころのない浮遊感を漂わせた演技が絶品で、実を言うとこの物語の方をずっと見ていたいほどだった。孤独な者同士の傷のなめ合いと言えばいいだろうか。陰鬱としたドラマではあるのだが、印象的な幕引きを含め、この後二人がどうなっていくのか、もっと観てみたかった。
映画は中盤から現実に戻って、一人旅に出た李と雪が降り積もる山村に住む孤独な中年男・べん造の話になっていく。
李は急逝した師の形見であるカメラを持って、取材のために見知らぬ寒村を訪れる。ところが、ホテルはどこも満室で、仕方なくべん造が切り盛りするオンボロ小屋に宿泊することになる。
ここでは李とべん造のやり取りがユーモラスで中々に楽しめた。ぶっきらぼうで偏屈なべん造を演じた堤真一の役作りも堂に入っている。一見すると彼だと分からず新鮮に観ることが出来た。
ただ、ここで前半で描かれた劇中劇と何か相関するかと思いきや、特にそういったプロットはない。そのため何となく前半と後半で2つの作品を強引に一つにまとめてしまった…という印象を持った。
強いて述べるなら、この2本は迷えるヒロインが夫々に異なる結末を迎える…という点に違いを見出せる。
劇中劇の方は、河合演じるヒロインは迷いを抱えたまま終わる。それに対して、本編のヒロイン・李は表現者としての壁を乗り越えて再出発する”意志”を見せて終わる。劇中劇を李の心情の投影だとすれば、この対比は彼女の成長を意味しているという見方が出来よう。
本作はつげ義春の漫画『海辺の叙景』と『ほんやら洞のべんさん』の2本を原作にしているということである。自分は原作を未読であるが、どうせなら夫々を1本の作品として観てみたかった…というのが正直な感想である。
尚、後半のオフビートなテイストには、同じつげ義春の漫画を映画化した山下敦弘監督の「リアリズムの宿」が想起された。これも映画監督と脚本家を主人公にしたロードムービーである。現実と夢の狭間で彷徨う人々に対する温もりに満ちた眼差しが両作品に共通している。
もう一つ、本作の主人公・李を原作と異なる韓国人の女性に設定したのにも、何かしら意図が込められていると想像する。
彼女は日本語を流ちょうに話すが、シナリオは韓国語で書く。そのあたりに異国の地で作家として生きることの難しさが透けて見えるが、彼女のバックストーリーはほとんど語られない。ユニークな設定に脚色した割に、それを活かすような場面が少なかったことは少し物足りなく感じられた。
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