劇場公開日 2025年11月7日

「つげ義春の世界を三宅唱が静かに描き出す、“何も起きない”ことの美しさ。」旅と日々 leoさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5 つげ義春の世界を三宅唱が静かに描き出す、“何も起きない”ことの美しさ。

2025年11月10日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

癒される

この映画を観ようと思ったのは、やはり漫画家・つげ義春(88)の原作という点に惹かれたからである。
それに、私自身も一人でふらりと旅や散策をするのが好きなので、タイトルの「旅と日々」という響きに心を動かされた。
そしてもう一つの理由……河合優実さんの出演。これも外せない。。。

本作は、つげ義春の世界観を現代に蘇らせた静かな旅の物語。
「自分には才能がない」と思い悩む脚本家の孤独と再生を、三宅監督らしい繊細なタッチで描いている。
映画は90分構成で、前半が「海辺の叙景」(李さんの脚本で撮影した映画として劇中劇として描かれる)、後半が「ほんやら洞のべんさん」。
ロケ地は前半が伊豆諸島・神津島、後半が雪の山形・鶴岡と庄内地方。どちらも作品の雰囲気にぴったりであった。
前半の「海辺の叙景」では、渚(河合優実さん)と夏男(髙田万作さん)が登場。つげ作品らしい“影”と“間”を体現していて、特に展望台での夜景の会話シーンが美しい。
そして河合優実さん、高田万作さんの二人が、つげ作品の住人のように二人の雰囲気が作品にフィットしていた。
そして荒れ狂う海を泳ぐ夏央に向って渚が、「あなたすてきよ」「いい感じよ」というあの有名なセリフも再現されていた。
後半の「ほんやら洞のべんさん」は、打ちひしがれた脚本家・李(シム・ウンギョン)が、山奥のさびれた宿に泊まるエピソード。宿主のべん造(堤真一)とのやり取りはユーモアもあり、どこか人間くさい。
「宿を映画にしてくれたら客が来る」と提案するべん造に、「この宿に客が来ても対応できるのか?」と思わず笑ってしまった。
また、ウサギの“ぴょんちゃん”の名前の由来をめぐる会話も秀逸。
「なぜ子どもがいないのにそんな名前を?」という李の観察に、べん造が「もうええ、お前は人のことを勘繰るヤツだ」と返す場面も笑える。また、脚本家という職業の本質を見たような気がした。
そして、佐野史郎さんが演じる魚沼教授。原作にはないキャラクターだが、前半と後半をつなぐ“橋”のような存在で印象に残った。

令和の現代において、ここまでつげ義春の世界を丁寧に再現した作品は貴重だと思った。
前半の真夏と後半の真冬という季節の対比が、現実と非現実の境界をぼかし、観客を“つげワールド”へと誘う。
ただし、原作を知らずに観ると「何も起きない映画」と感じる人も多いはず。
でも、その“何も起きない時間”こそがつげ義春の真髄。
静けさの中にあるユーモアと、人間の哀しみを感じ取れる人にとって、本作は忘れがたい一本になると思われる。
ぜひ、原作漫画を読んでから映画を観ることをおすすめする。
以上

leo
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