劇場公開日 2025年11月7日

「先ず言葉ありき」旅と日々 ジュン一さんの映画レビュー(感想・評価)

3.5 先ず言葉ありき

2025年11月9日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

笑える

幸せ

癒される

『つげ義春』の漫画、
〔海辺の叙景〕と〔ほんやら洞のべんさん〕の二作を
原作にしていると、エンドロールでクレジットされる。

〔海辺の叙景〕は劇中で上映される映画作品として使用。

『河合優実』演じる、車に乗っていた若い女性が
浜辺で若い男性に逢い親しく言葉を交わす。

嵐が迫る海の中を誘い合い泳ぐシーンは印象的。
二人の間は、言葉で埋め尽くされている。

件の映画の脚本を書いたのは主人公の『李(シム・ウンギョン)』。
大学での上映会後のティーチインで、
学生の質問に対し「自分には才能が無い」と吐露してしまう。

(おそらく)韓国人の彼女は、日本に来た当初は
何もかもが新鮮で刺激的だったハズ。

それが今は日常に埋もれてしまい。
もはや新たに言葉を紡ぎ出せないでいる。

『李』はあてどない旅に出る。

トンネルを抜けるとそこは雪国で、
夜の外が白くなる。
まさに『川端康成』が描いた情景。

彷徨った後に山奥の宿に辿り着き、
主人の『べん造(堤真一)』の厄介になる。

以降が〔ほんやら洞のべんさん〕での展開。

ここで『堤真一』がいい味を出している。
訥々とした語り口。
仙人のような暮らしぶりなのに、
それなりの世俗への欲はあり。

彼と幾日かを過ごすうちに、
次第に主人公の心は解れ開かれ、
書くべき言葉を取り戻す。

九十分ほどの小品はドラマチックな事件が起きるわけではない。
が、思わずくすりと笑いを漏らしてしまう会話が冴えている。

登場人物たちは皆良き人で、
醸し出す善意がじわじわと観る者の心に沁みて来る。

言葉と対峙していた主人公は、
やがて自家薬籠中のものとする。

とは言え、雪の積もった道を帰る彼女の足取りは、
けして軽やかでもまっすぐでもないのだが。

「第78回ロカルノ国際映画祭 インターナショナル・コンペティション部門」での
「金豹賞《グランプリ》」「ヤング審査員賞」受賞とポスターにも書かれている。

(身につまされる)書けないでいる脚本家
日本の原風景
主人公を助ける朴訥な宿の主人
体験を経ての再生

異国の審査員の琴線に触れる要素は、幾つも揃っている。

ジュン一
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