「疲れた人ほど刺さる映画」旅と日々 かなり悪いオヤジさんの映画レビュー(感想・評価)
疲れた人ほど刺さる映画
三宅唱監督自身がインタビューで“疲れた人ほど刺さる映画”と自画自賛していたが、“疲れている”のは監督自身と首相就任以来飛ばしまくっている高市早苗ぐらいのものではないだろうか。リベラルの台頭でワークバランスが声高に叫ばれる昨今、この映画を観るコアな層になるであろう(三宅監督と同世代の)ミレニアル世代には、あまりあてはまらないキーワードのように思えるからだ。
90分足らずでサクッと鑑賞できる尺には好感がもてるものの、なにかが物足りない。『海辺の叙景』と『ほんやら洞のべんさん』というつげ義春原作の2つの短編漫画を1本の映画にまとめているのだが、当初の構想では『蒸発』というつげの短編漫画をもう1本追加する予定だったとか。多分予算の関係で断念せざるを得なかったのだろうが、舌足らずの感はいなめない。
前半は、都会生活に疲れ帰省した青年(高田万作)と、一人旅の若い女(河合優実)とのセンチメンタルかつどこかエロティックな出会い。後半は、その劇中劇のシナリオを担当しているコリアン脚本家李(シム・ウンギョン)が仕事に行き詰まりを感じ、温泉街のはずれに位置するおんぼろ宿を訪れて執筆意欲を取り戻す、といった2部構成になっている。
強風に煽られたミニスカートからのぞく河合優実の太股がなんとも艶かしく、大雨の中海に入っていく(原作漫画では自分でデザインしたことになっている)水着姿の河合優実からは、今時のお花畑ラブロマンス映画ではまずお目にかかれない“昭和エロス”が漂っている。絡みと呼べる絡みは一切ないのだが、ばあちゃん手作りの“蜜豆”を二人してほおばり合うシーンなどは、つげ義春の確信犯的演出であろう。
うってかわって後半の“ほんやら洞”のくだりでは、明らかに場違いな宿泊客李とまったくやる気のない宿主べん造との噛み合わないトークが見処で、最後は「どうにもなんねぇこどは、どうにもなんねんだ」ですませてしまうべん造に、かえって心をホッコリさせられる李なのだ。そして本作で描かれることのなかった『蒸発』は、漫画制作に行き詰まりを感じていたつげ義春の閉塞感と現環境からの“蒸発”願望がベースになっているという。
ようするに、脚本家兼映画監督という現在の職業に行き詰まりを感じているであろう三宅唱監督の、“空っぽになりたい”願望をつげ義春の漫画に仮託させた作品なのはないか。1984年生まれの41歳映画監督がミドルクエイジ・クライシスに陥った、ということなのだろう。役者がストレスを感じない居心地のいい撮影現場に定評のある三宅唱監督だが、役者やスタッフがためこんでいたストレスを三宅監督が吸収して、逆に監督自身が疲れきってしまったのではないだろうか。三宅監督のことが、とても心配になるのである。
他人の抱えている心労やストレスなんて所詮肩代わりしてやるなんてことはできないのだから、ほっときましょうよ。“どうにもなんねぇことは、どうにもなんねぇ”精神でボチボチいきましょうや、ねえ監督。
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