劇場公開日 2025年11月7日

「ホントに映画らしい映画を久しぶりに観たよ」旅と日々 あんちゃんさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0 ホントに映画らしい映画を久しぶりに観たよ

2025年11月7日
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鑑賞方法:映画館

つげ義春の「海辺の叙景」と「ほんやら洞のべんさん」の二つが原作。同列に並ぶものと思っていたが「海辺」の方は李(シム・ウンギョン)が脚本を書いた映画内映画という設定。冒頭に上映される「海辺の叙景」では若い男(高田万作)と若い女(河合優美)が浜辺で話したり台風が近づく海で泳いだりする。女の方は他の男女に攫われてきたニュアンスもあり、指を怪我していたりして訳ありではあるが、一切の状況説明はない。河合優美は状況で芝居する人なのでお手上げでいつもより心もとなくみえる。
「海辺の叙景」は大学の講義で上映される。蓮實重彦を連想させる教授からはじめ概ね好評ではあるのだが、納得のいかない李は旅に出る。だから映画の後半、原作で言うと「ほんやら洞」のあたる部分は映画探しの旅でもある。李は脚本家であるので、彼女にとっての映画はまず言葉である。彼女は美しい究極の表音文字であるハングルでシナリオを書く。ても彼女自身も言っているように言葉は意味を持った途端に陳腐化する。だから脚本家は言葉を次々と編み出し先に先に進まなくてはならない。その行動の形が旅ということなのだろう。ほんやら洞では、彼女は部屋の中を見て、べんさんの過去を予想する(妻や子に逃げられた中年男)、でもべんさんの行動はその予想を上回るものだった。ここにきて原作を二つ積み重ねることによって、非ドラマというか無ドラマともいうべきつげ義春の原作が、おおいなる奇譚として、つまり圧倒的に映画的なドラマとして提起される。我々は、李に仮託されていた本作の実際の脚本家三宅唱の実力を思い知ることとなる。
三宅唱の仕事は脚本だけではない。この映画はスタンダードサイズであるが、撮影深度が深く、映像に無限に続く奥行きがある。また構図が実に垢抜けており、ショット一つ一つにタメがある。
惚れ惚れする映像テクニックに巧妙な脚本、抑制の効いた役者の演技、観客の生理に合った長さ。
どこをとってもこれは映画である。最も映画らしい映画といって良い。例えば「爆弾」などと比べてみれば良い。あれは映画館で観るテレビドラマに過ぎないことがよくわかる。

あんちゃん
琥珀糖さんのコメント
2025年11月7日

コメント・共感ありがとうございます。
読ませていただいて、
とても勉強になりました。
つげ義春さんは、名前しか知らずで、
今回は俄か勉強をして書きました(笑)
若い女は、もしかしたら攫われて来たのかもしれない。
成る程、指の包帯とか、訳ありなんですね。
実は私、堤真一さんに気づかず見てました。
アップがなかったですよね。
キム・ウンギョさんは、不思議な存在で、
女優さんららしくない珍しい方ですね。

琥珀糖
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