劇場公開日 2025年6月27日

「住んでいる場所に根っこがない寂しさ、不安感がひしひしと伝わる。」フォーチュンクッキー あんちゃんさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5住んでいる場所に根っこがない寂しさ、不安感がひしひしと伝わる。

2025年7月18日
Androidアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

原題通りカリフォルニア州フリーモントでの物語である。サンフランシスコの南側に位置する人口20万人強の都市だが、住民のほぼ半分がアジア系という移民の街である。アフガン人のコミュニティも当然あるのだが主役のドニヤは、中国人の経営するフォーチュンクッキー工場に勤めながら、寝食はアフガン人のコミュニティで、という行ったり来たりの生活をしている。
ドニヤの来歴ははっきりしていて、カブール生まれの彼女はアメリカ軍基地で通訳をしていた。2021年にアフガンから米軍が撤退した時に一緒に逃れてきたのである。彼女は自分でも運が良かったと言っているが撤収のための飛行機に乗せてもらえないアフガン人もいた。その中には後に殺された者もいる。まして女性の通訳などは、タリバーン政権が容認するわけはなくアフガンに戻れば厳しい取り調べと投獄が待っている。他のアフガン難民以上に、彼女は全くに故郷を失ったのである。若く、インテリであるドニヤは、周りのアフガン人とは反りが合わない。不眠に悩む彼女は精神科医に罹る。この医者も親切ではあるのだが何か噛み合わない。フォーチュンクッキー工場の中国人経営者も親切で、ドニヤにおみくじの文案を書く仕事をまわしてくれる。まあ、これが後になって騒動につながっていくのだが。
基本的にはドニヤの周りの人は皆、善良である。だからドニヤが浮き上がっていくのは彼女のせいでもあるのだが、映画では、彼女の戸惑い、寂しさ、不安を淡々と描いていく。
善良であると書いたが、一人、中国人経営者の妻だけが、ドニヤに対する不快感、悪意をあらわにする(ポットから注いだだけのコーヒーに2ドル50セントも支払わせたりする)彼女が仕掛けた意地悪というかワナに引っかかったドニヤが郊外に車で出かけて自動車修理工のダニエルに出会うところで映画は終わる。
ドニヤにとっての教訓は、好意を受けた場合は、素直に受け取っておきましょうというところか。

あんちゃん