「あなたが今いる場所は、かつての自分の感情が積み上げてきた回廊」フォーチュンクッキー Dr.Hawkさんの映画レビュー(感想・評価)
あなたが今いる場所は、かつての自分の感情が積み上げてきた回廊
2025.7.3 字幕 アップリンク京都
2023年のアメリカ映画(91分、G)
アフガニスタン難民の新天地での生活を描いたヒューマンドラマ
監督はババク・ジャラリ
脚本はババク・ジャラリ&カロリーナ・カバリ
原題は『Fremont』で、映画に登場するカリフォルニア州の街の名前
物語は、フリーモントにあるフォーチュンクッキー工場に勤めるアフガニスタン移民のドニヤ(アナイタ・ワリ・ザダ)の日常が描かれて始まる
かつて米軍の通訳をしていたドニヤだったが、運よくアメリカに来ることができていた
同じような境遇の人々がフリーモントに集まってコミュニティを形成していて、隣人のサリム(シディク・アーメド)も同郷のカブール出身だった
クッキー工場は中国移民二世のリッキー(エディー・タン)とその妻リン(ジェニファー・マッケイ)が経営していて、ドニヤはそこで包装などの仕事に従事していた
同僚で友人のジョアンナ(ヒルダ・シュメリング)は彼氏を作ろうと躍起になっていて、ドニヤも色々と誘われていたが断り続けていた
ある日のこと、フォーチュンクッキーのメッセージ職人ファン(エイビス・シースー)が突然死してしまい、ドニヤはその後任を任されることになった
ファンとは違う方向でメッセージを書き始めたドニヤ
念願のセラピーに通うようになり、アンソニー医師(グレッグ・ターキンソン)との会話も増えてくる
当初は睡眠薬をもらうために通っていたドニヤだったが、やがて行動を変えていく
アンソニーはドニヤがフォーチュンクッキーのメッセージを書いていると聞き、自分自身でもメッセージを書き始めていく
そうしたやりとりをする中で、ドニヤはあることを思いついてしまった
それは、メッセージの中に「自分の連絡先を忍ばせる」というもので、見知らぬ誰かとの出会いが生まれることを考えるのであった
映画は、そのメッセージが意外な人に見つかってしまい、思わぬ人の元に届いていく様子が描かれていく
ドニヤに来た返信には「鹿を呼び出してください」という意味不明な言葉が踊っていた
どうするか迷っていたドニヤだったが、サリムやジョアンナの後押しもあって、指定された場所に向かうことになった
ベーカーズフィールドに到着したドニヤは、車の不調から、そこにあった整備工場にて車のオイル交換をする事になり、整備工のダニエル(ジェレミー・アレン・ホワイト)は親切に接してくれた
その後、レストランに入ったドニヤの隣のフロアに座ったダニエルとのぎこちない会話が進むものの、ドニヤの探している人物は現れそうにない
仕方なく陶器屋に入ったドニヤは、そこで「鹿のこと」を店主に告げると、彼は「リンさんの注文だ」と言って、鹿の置物を出してきた
彼女はメッセージがリンに見つかって嫌がらせをされたことに気づき途方に暮れる
だが、ここでドニヤはある決断をすることになった
それは本作のラストとなっている
物語は、人生の行く末はどのように決まるかを描いていて、アンソニーとの会話にエッセンスが凝縮されている
彼は「自分の未来を決めるのは感情である」と言い、数々の人生の岐路を導くものだと言う
それは心に従う行動とも言え、それが彼女の最後の行動に結びついている
映画では、はっきりとした結末は描かれないものの、きっと誰もが二人を応援したくなったのではないだろうか
いずれにせよ、フォーチュンクッキーのメッセージにも人生を変える力があるとリッキーが言うように、人の感情を動かすものは意図されぬ些細なものであることの方が多い
それをうまく自分の人生の中で見つけるかという事よりも、遭遇した時に沸き起こった感情にどのように向き合うかで未来が決まるとも言える
メッセージを見てどのように感じ、それを潜在意識がどのように刻むかという部分においても、初発の強烈な感情というものと向き合えるかどうかというのが人生の肝であると思う
そこで自分がどのような感情と心理に左右されるかはわからないものの、それらはやがて積み上がっていく事になる
そう言った意味において、どんなに些細なことであっても、起きた事に対する感情を大切にすることが、人生をより良く生きるための第一歩と言えるのかもしれません