「圧巻で圧倒される」コラテラル R41さんの映画レビュー(感想・評価)
圧巻で圧倒される
2004年の作品
解説にあったようにクライムサスペンス
そして多層的な意味を持つ「コラテラル」をタイトルにしているのは圧巻ともいえるほど秀逸さを感じる。
当時、地上波で見た記憶があったが、酒を片手のエンタメ作品としての認識しかなかった。
冒頭に登場するジェイソンステイサムとトム・クルーズの共演に心が躍るが、ジェイソンの出演はそれだけ。
つまり、ここで物語の余計な部分がはがされる。
監督はこの部分を使い、「視聴者のそんな期待度を超えて見せよう」と言っているのだ。
そしてその通りだった。
映像はもちろん、脚本も圧巻なハリウッドだが、2004年にこんな大作を作っていたのは驚きで、今でもまったく色褪せることのない面白さが詰まっている。
この作品の脚本と構成は本当に凄い。
トムの起用は、ミッションインポッシブル2の後ということもあり、ビンセントとイーサンは真逆のポジションに位置しながら、その思考、つまり任務に対して極めて冷静かつ論理的な行動や、感情に流されず、状況を分析し、最適な手段を選ぶ姿勢は共通しているように感じる。
ヴィンセントは「誰もが孤独で、死は避けられない」と語る一方、イーサンも、仲間を持ちながらも常に孤独な選択を迫られる存在 どちらも「孤独を受け入れた者」という点で共通している。
このイーサンの雰囲気を我々は最初から勝手に感じ、勝手にビンセントに対する受容を持ってしまう。
これこそが監督の罠
同時にタクシードライバーのマックスの紳士的かつ人間的な性格に受容を持つ。
このビンセントのスマートな殺し方 顔色変えずに射殺する姿 彼の任務が何かわからないが、そこに視聴者は、勝手に悪と戦っているような錯覚に陥る。
ところが実際は逆
マックスは淡々と語るビンセントに心の底から震えが止まらないのだろう。
「人が必ず持っているものを、お前は持ってない」という言葉で揶揄する。
加えてビンセントは非常に賢く、知識があって哲学的思考を持っている。
しかしその思考はスロットマシーンのようにその時々で、状況次第によって変更される。
まるで弁論部の弁論大会のようだ。
ビンセントの無駄のない動き方と派手なアクションと知性によって、視聴者の視点はあくまでビンセントを追うのだろう。
同時に視聴者はマックスの視点でこの物語を考える。
しかしどうしてもビンセントから逃れられない。
この面白さ
4人目を殺すまでは、この物語はクライムアクションだが、5人目のターゲットがあの女性弁護士アニーだったことで、マックスのスイッチが切り替わる。
このスイッチを切り替え、目の前の問題に対処することをずっと教え続けていたのが、他ならぬビンセントだった。
この面白さ
そしてここからは急にクライムサスペンスになる。
事故を起こしたタクシーの中にあった死体を発見した警察官
拳銃を奪い警官に手錠してアニーのところへ向かうマックス
ハラハラドキドキもちょうどよく、地下鉄での対峙
マックスの夢と母についていた嘘
できるのにいつまで経っても踏ん切りがつかない人生
そして、
客のアリーと同じ質問をするビンセントという設定
この面白さ
ビンセントはサイコともいえるほどの人格
あのようなやり方でトランぺッターを殺すというのは、視聴者もマックスにとっても驚きでしかない。
この仕事のために捨てた人格
「人であれば誰もが持っているもの」を捨てたビンセント
アリーの仕事の大変さを気遣って渡したモルジブのポストカードに込められた想い
この想いがビンセントよりも「先」だったのだろう。
マックスがアリーに言った「この写真を持っているといいことがありますよ」
その良いことは、自分自身の行動だった。
この人生の因果関係が、まわりまわっているということと、ビンセントの「ロスの地下鉄で男が一人死んだところで誰も無関心だ」という言葉
ここが考え方の大きな違いだったのだろう。
ビンセントの話す正しさも、正しいように思える。
マックスが思う考えは、弁論部のようになってしまうと簡単に負けてしまえるように感じる。
しかし、マックスのウィークポイントをほんの少しだけ修正すれば、ビンセントにさえ勝ってしまうことができる。
タイトルから汲み取ることのできる意味
巻き添え被害 人間関係の担保 副次的な出会いと変化
タイトルなどは後付けだと思われるが見事なセンスだった。
スリリングで飽きの来ないアクションも1流だろう。
やっぱり何よりも良かったのが脚本と構成だったように思う。
単純明快なビンセントの仕事に、その過程で起きたこの物語
どこをとっても素晴らしい作品だった。