「贈られた言葉をどのように咀嚼するかで、人生の目的地は変わってしまうもの」脱走 Dr.Hawkさんの映画レビュー(感想・評価)
贈られた言葉をどのように咀嚼するかで、人生の目的地は変わってしまうもの
2025.6.26 字幕 MOVIX京都
2024年の韓国映画(94分、G)
南北国境線付近から脱北しようとする北朝鮮兵を描いたスリラー映画
監督はイ・ジョンピル
脚本はクァク・ソンフル&キム・ウグン
原題は『탈주』、英題は『Escape』で、ともに「脱走」と言う意味
物語の舞台は、2000年前後の北朝鮮・韓国国境付近の非武装地帯
民警部隊としてそこに赴任している小隊長のイム・ギュナム軍曹(イ・ジェフン、幼少期:ホンゴン)は、脱北を企てていて、夜になると脱出ルートの精査に出かけていた
鉄条網をくぐる場所、地雷原の地図などを作成し、あとは決行あるのみと言う段階になっていた
だが、分隊員のドンヒョク(ホン・サビン)に知られてしまい、彼は雨が降る前に実行しようと考えていた
ドンヒョクはギュナムからそれを奪って脱走を企てるものの、ギュナムは危険だからと止めに入った
そして、その揉み合いの最中に警務部に見つかってしまい、二人とも脱走の罪で捕まってしまった
脱出用のメモを誰が作ったのかと詰問されるものの、ギュナムは固辞し、ドンヒョクは彼を庇うように「自分が作った」と答えた
その知らせは本部保衛部にも知れ渡り、リ・ヒョンサン少佐(ク・ギョファン)が現地に赴くことになった
ヒョンサンは現場に残された物的証拠などから、ドンヒョクの単独犯でギュナムはそれを止めた英雄であると結論づけた
物語は、その後ヒョンサンとともに行動するギュナムが描かれ、二人が旧知の仲だったことが仄めかされていく
ヒョンサンはギュナムを本部要員に抜擢するものの、ギュナムは除隊までに北朝鮮を脱出しようと考えていた
その考えが見抜かれていたのか、ヒョンサンは半ば強引に自分の監視下にギュナムを置くことを決め、移動届を出させた
映画は、なかなか脱出に至れないギュナムが描かれるものの、ヒョンサンからの申し出を利用する形で通行証を偽造したり、身分証を偽ったりする様子が描かれていく
宴会で酔っ払った将軍(イ・ホチョル)を介抱するフリをして宴会場を抜けるなどの機転を効かしつつも、あっさりと見つかって尋問を受けたりする
最終的には警務部が管轄する収容所に出向いてドンヒョクを助けるものの、さらに放浪民たちに捕まったりもしてしまう
放浪民の仲間が捕まっていることで、それを奪還するための戦闘があったり、執拗に最後まで追ってくるヒョンサンの執念深さと言うものも怖い
最後までハラハラとできるので、スリラー好きにはたまらない展開になっていると思った
映画のラストでは、「執念の探検かアムンゼン」と言うギュナムが大事にしていた本が登場し、そこに「あること」が書かれていた
なぜか字幕表記がなかったのだが、あの本には「ピアノ兄貴からギュナムに向けた言葉」が書かれていて、内容は「死ではなく、意味のない人生を恐れよ。誕生日おめでとう」と書かれていた
あの本はヒョンサンからギュナムに贈ったプレゼントで、彼はその言葉を胸に頑張ってきたのだと思う
ヒョンサンはピアノの夢を捨てて軍部で成り上がることを考えてきたが、ギュナムはその言葉を胸に「失敗を繰り返せる場所」を目指していた
向かう先は違うものの、ヒョンサンはギュナムの執念を買って、あえてトドメを刺さなかったのではないだろうか
いずれにせよ、まさかの同性愛設定があったので、ヒョンサンがギュナムに向けていた視線はそっちの視線だったのかな、とか余計なことを考えてしまった
北朝鮮にあんな感じの貴族がいるのかはわからないが、そこらへんは韓国から見たファンタジーということで良いのだろう
それよりも、軍事境界線にあんな電話があるという方が驚きで、そのあたりも含めて勉強になるなあと思った