劇場公開日 2025年6月28日

「3本の映画が絡みあって出来上がった不思議な縁」選挙と鬱 sow_miyaさんの映画レビュー(感想・評価)

4.53本の映画が絡みあって出来上がった不思議な縁

2025年7月19日
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鑑賞方法:映画館

奇しくも参議院選挙最終日に、「浅草キッド」のロケ地の上田映劇で、水道橋博士と青柳監督の舞台挨拶付きで鑑賞。
映画は、ある意味、これ以上ない見事な伏線回収で終わるが、普通に観るだけではわからなかった製作背景まで伺う事ができて、更に世界が広がった。

<ここから内容に触れた感想>

○青柳監督は、「東京自転車節」に感動した町山智浩さんからのオファーで、水道橋博士の22年7月の参議院選挙を追いかけることになった。水道橋博士は見事に当選するものの、鬱病が発症し、3ヶ月で療養休暇入り。そして、翌年1月には議員辞職。
青柳監督はしばらく距離を置いていたが、8月におよそ一年ぶりに博士と再開。その時に、青柳監督が「東京自転車節」でも描いた「Uber eats」を、「身体を動かすことが鬱病にもよいから」と指南する。
自転車とくれば、博士の敬愛する師匠の北野武が撮った「キッズリターン」。あの名台詞が、どういうシチュエーションで飛び出てくるのかはここでは語らないが、とにかくお見事だった。

○更にそこに加わっていたのが、実は「福田村事件」だったというのが、今回の大収穫。
参議院議員として活動する博士は、以前から受けていた「福田村事件」の撮影のため、東京と京都を行き来する生活の中で、日頃のリベラルな活動と真反対の軍国主義者の役を演じて、心身共に疲労していた事が、鬱病発症の引き金になった可能性もあったとのこと。かの作品での、博士のやや硬い演技が蘇った。
でもそうやって、3本の映画が絡みあって出来上がったのが本作という、映画がつなぐ不思議な縁を感じる。

○鬱病に関して。
どうして、精神疾患と言われる病気は、「原因」ということが問題にされるのだろう。(もちろん、発症の引き金はあると思うが)
例えば感染症は、新型コロナの時は別だったが、「原因」は、ことさら問題にはされないと思うし、手術が必要な病気も「原因」ではなく、どうやって治すのかが関心事。
自分が昨年突然発症したいわゆる膠原病の一つである指定難病も、「原因」は一切わからないので誰でも発症する可能性があるし、完治がないから、いかに安定した状態で症状固定(寛解と言われる)させていかれるかが大切だ。
鬱病も、同じように誰でもなる可能性があるし、完治というより寛解を目指す病気ではないかと思う。それなのに、「原因」が問題にされてしまうのは、それさえ解決すれば、元通りになるという素朴な考えなのか、「病は気から」ということで、気の持ちようでなんとかなると思われているのか…。

○お金があることは、偉いこと?
本作の中でも出てくる、持てる者と持たざる者の歪な上下関係。金があれば居丈高な振る舞いが許されると思っている感覚は、「本心」のリアルアバターのシーンや、「ニューヨークオールドアパートメント」の配達途中の事故シーンでも、持てる者達から感じたのだが…。なんか気持ちが貧しいなぁ。
アフタートークで、そのハラスメントを受けた博士が、咄嗟に「このシーンは美味しくなるぞと思った」というエピソード紹介があったが、その軽やかさは、とても素敵だなと思った。

sow_miya