「歪め切り取り煽る、週刊誌や大手メディアやネット識者に突き刺さる秀作」でっちあげ 殺人教師と呼ばれた男 komagire23さんの映画レビュー(感想・評価)
歪め切り取り煽る、週刊誌や大手メディアやネット識者に突き刺さる秀作
(完全ネタバレですので必ず鑑賞後にお読み下さい!)
結論から言うと、今作の映画『でっちあげ 殺人教師と呼ばれた男』は、重たい秀作だと思われました。
今作は2003年の福岡市で実際に起こった事件です。
今作の題材になった福岡市の事件は、裁判にもなり、2008年の確定した福岡高裁判決で、当該教師が、「アンパンマン」(両頬を指でつかみ強く引っ張る)、「ミッキーマウス」(両耳をつかんで強く引っ張る)、「ピノキオ」(鼻を強く引っ張る)などの「体罰」や、教室の床に落ちていたランドセルの持ち主が名乗り出ないのでゴミ箱の中に捨てた事などが、違法行為と認定され、福岡市に330万円の慰謝料を命じ、確定しています。
しかしながら、その体罰は、生徒側原告の訴えに比べて「相当軽微なもの」とも認定され、被害を訴えた生徒や両親の証言はことごとく否定され、教師による生徒に対する、家庭訪問での人種差別発言も、体罰での怪我も、体罰によるPTSDも、全て判決で否定されています。
即ち、映画の中の週刊誌 週刊春報のモデルとなった週刊文春で書かれ、当時、被害者とされた生徒側からの一方的な主張の記事内容は、ほとんどが結果として誤報デマ「でっちあげ」になったのです。
そして、映画で、加害者とされた教師である主人公・薮下誠一(綾野剛さん)を責め立てた、週刊春報の記者・鳴海三千彦(亀梨和也)のモデルとなった、「殺人教師」の見出しで記事を書いた当時の週刊文春の記者は、今もこの件の事実誤認の点について訂正も謝罪も行っておらず、驚くべきことに、その後も2010年発売の書籍で加害者とされた教師を嘲笑し、今も著名なジャーナリストとして活躍しています。
この事件の結論としては、映画でも描かれたように、2003年の事件から10年後の2013年に福岡市人事委員会が、「体罰は一部あったが、停職6カ月の懲戒処分をするべき場合にはあたらない」と、福岡市教育委員会の2003年に下した停職6カ月の懲戒処分を取り消す事で決着しています。
この映画の本質は、事実を歪め切り取り煽る、多角的検証で事実に迫るのとは対極の、今も続く、週刊誌や、一斉に同じ方向に糾弾する大手メディアや、ネットの識者や、その論調を鵜呑みにする読者や視聴者に対する疑義であろうかと思われます。
この映画で描かれた加害者とされた教師の名誉が回復されるのには10年もの時間が掛かり、もしかしたら現在も完全に回復されていないのかもしれません。
この事件は、落ち着きのない生徒に対する、(当時の時代であれば容認の範囲内だった)「相当軽微な」体罰が発端の事件でした。
決して全国的に叩いて糾弾すべきレベルの話ではなかったと思われます。
そんな事実を、歪め切り取り煽る、週刊誌や一方的に断罪する大手メディアやネット識者や読者や視聴者の、多角的検証なき偏向は、今も継続していると思われます。
これまでの作風とは違った三池崇史 監督の淡々とした表現を含めて、今作の映画『でっちあげ 殺人教師と呼ばれた男』を、重たくも重要な作品であると、個人的にも深く鑑賞しました。
