「三池崇史監督の本領が垣間見えるホラーチック作品」でっちあげ 殺人教師と呼ばれた男 alfredさんの映画レビュー(感想・評価)
三池崇史監督の本領が垣間見えるホラーチック作品
三池崇史という監督は、ホラーチックな作品を撮ると本領を発揮するようだ。これが完全なホラー映画になると、抑制が上手く効かずに目茶苦茶なことを仕出かす傾向があるように思う(時にはそれが魅力にはなるのだが)。
本作は、ホラーチックな作品であり、三池監督の本領がよく発揮されていると言える。
主演の綾野剛さんは、普段の二枚目キャラとは違う、周りの雰囲気に流されて追い込まれる主人公を好演している。
映画は、まず氷室律子から見た事実から始まり、その後に主人公の藪下誠一による事実を描く。いわゆる羅生門スタイルの映画だ。藪下という主人公名もおそらくはこれに由来しているはず。
黒澤明による「羅生門」は芥川龍之介の「羅生門」と「藪の中」を原案とし、誰が真実を言っているのかわからないという話だが、映画の最後では捨てられた赤子を語り手の男がもらい受ける場面を設けて希望を出している(「赤ひげ」もそうだが黒澤明という人は極めてヒューマニストである)。
本作では、教育委員会に児童への暴力を認定され、マスコミから「殺人教師」というレッテルを貼られてても、妻は夫を応援し、子供は父親と同じ教職を目指している。そこに希望めいた光はある。
名探偵コナン君は「真実はひとつ」とは言うが、「事実はひとつ」とは言わない。事実は各人の認識した事柄だが、真実はより客観性のある俯瞰されたものだ。
それだけ、人は容易に真実には到達し得ない。
本作でも真実には到達はしていない。氷室律子とは何者かという疑問は残るし、藪下が失ったものは本当に回復されたのかも分からない。
虚言癖の女と彼女に翻弄された家族はどこかへと消えるが、おそらく彼らは我々の世間の中へと埋没し、何時でも再登場する機会を狙っているのだろう。
それ故に、本作はホラーチックと言える。