「ノーが言えない人間の末路」でっちあげ 殺人教師と呼ばれた男 セッキーかもめさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5ノーが言えない人間の末路

2025年7月9日
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鑑賞方法:映画館

悲しい

怖い

難しい

生徒に凄惨な体罰を行ったとして、小学校教諭である藪下が懲戒処分となった。しかし、事実はそれと反するものであり、藪下は弁護士や家族と共に法廷で真実を明らかにしていく。

本作は、福岡市で実際に起こった事件を基に作られた作品らしい。そのため、リアリティー性は抜群で、人間関係の生々しさはこの上ない。

はじめに、被害児童の母の視点から供述が行われる。これだけを観た観客は、とんでもない暴力教師だ、今すぐ辞めさせるべきだと感じる。しかし、その考えはストーリーが進行するにつれて、瓦解する。藪下が出廷するシーンが2度あるが、被害者側の供述を聞いた後と、双方の供述を聞いた後で、全く同じシーンがまったく別物に見える。これは、実際にこの事件が起こった当時の見え方そのままなのであろう。

本作の持つメッセージとしては、モンスターペアレンツの登場、責任ばかりが問われ立場が弱くなっていく教師という職業の過酷さ、マスコミなどが流す不確定な情報による印象操作の脅威など、ノンフィクションであるから、感じとることはそれぞれでいいと思う。

私はここで、自身の公務員としての観点から、問題が起こった初期の段階に注目し、藪下がその場しのぎのために、事実と反することに概ね同意してしまったことの重大さに言及したい。

それは、半ば誘導尋問のような最初の保護者説明会である。あのような公の場で安易な回答は控えるべきであった。当然悪いのは、でっちあげた被害者なわけであるが、公務員として職務にあたる上で、このような人物にも対応する必要がある。校長や教頭にしっかりと弁明し、ここで毅然とした態度をとるべきであったのだ。

本作を、こんな悪質な冤罪事件があったんだなくらいに俯瞰できればいいが、世の中にはこのような人物と常に相対さなればならない人が一定数存在する。その人にとっては、本作の持つメッセージは、別のものとなりうるだろう。

セッキーかもめ
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