「母親役柴咲コウの怖さ、教師役綾野剛の演技の幅、小林薫弁護士の良い味、三池祟史監督の抑え気味の演出が魅力」でっちあげ 殺人教師と呼ばれた男 Kazu Annさんの映画レビュー(感想・評価)
母親役柴咲コウの怖さ、教師役綾野剛の演技の幅、小林薫弁護士の良い味、三池祟史監督の抑え気味の演出が魅力
三池祟史監督による2025年製作(129分/PG12)日本映画。
配給:東映、劇場公開日:2025年6月27日。
メディア報道の問題、現場の一教師の弱い立場、そしてモンスター・ペアレントの怖さと、タイムリーな題材が描かれて大変に面白かった。一つには福田ますみさんによる原作(2007年新潮ドキュメント賞受賞)の良さが、多分あるのだろう。そして、三池崇史監督による冷静な押さえ気味の演出にも好感を覚えた。
暴力的な教師と優しい先生の両者を演じ分けた綾野剛の演技自体も良かったが、ガーシー氏によりスキャンダルめいたことを言われてTVから追い出された綾野剛を、裁判勝訴ながら、この殺人教師をでっちあげられた役にキャスティングしたことに、制作者達の逞しさは感じさせられた。
でっちあげ週刊誌記事により綾野・先生を追い込むモンスター母親役が柴咲コウで、彼女の目力の強さから来る怖さが生きて、見事なはまり役の印象。ただ、自分には外国人の血が混ざっているという大嘘までついて、先生を追い込む、その理由が映画を見終わっても、あまり明確にならず、その点ではモノ足らなかった。片親で子供の面倒を殆ど見ない母親の元で育ったことや息子の教育が上手くいっていないことが遠因の様に描かれていたが、納得感は得られなかった。
週刊誌により実名を挙げて殺人教師と誹謗され、家の周りをマスコミに取り囲まれ、多大な恐怖を一般人の家族に与える展開には、まさに今も起きているオールドメディアの悪弊を炙り出し、えらく感心もさせられた。
尚事実としては、朝日新聞(西武本社)の記事が発端で、それを追いかけたのが週間文春で、元神戸新聞記者の西岡研介による実名を出した記事ということらしい。当時の編集長名は分からなかったが、シロという裁判結果が出ても、未だ謝ってもいないという週刊文春の姿勢には激しい怒りを覚えている。
映画に戻るが、その場をとにかく収めようとする教頭や校長の態度にはリアリティが満点。そして映画は言わば法廷劇となっていて、正義感を秘めた庶民的弁護士役の小林薫が良い味を出していた。スッキリとはいかない判決結果の受け止めを経ての、教育委員会によるいじめ的行為があったとしたことを撤回するというオチも、なかなか感動的であった。何より、三池祟史監督の優れた力量を知ることが出来たことは自分的には収穫。
監督三池崇史、原作福田ますみ、脚本森ハヤシ、企画和佐野健一、プロデュース和佐野健一、プロデューサー橋本恵一、 坂美佐子、 前田茂司、撮影山本英夫、照明小野晃、録音中村淳、美術坂本朗、キャラクタースーパーバイザー前田勇弥、音響効果中村佳央、編集相良直一郎、音楽遠藤浩二、音楽プロデューサー津島玄一、主題歌キタニタツヤ、助監督倉橋龍介、司法監修丸住憲司、司法・裁判監修坂仁根、制作プロデューサー奥野邦洋 土川はな 今井朝幸、キャスティングブロデューサー高橋雄三、俳優担当平出千尋、制作担当塩谷文都。
出演
薮下誠一綾野剛、氷室律子柴咲コウ、鳴海三千彦亀梨和也、大倉孝二、前村義文小澤征悦、
堂前髙嶋政宏、迫田孝也、山添夏美安藤玉恵、箱崎祥子美村里江、藤野公代峯村リエ、戸川東野絢香、橋本飯田基祐、氷室拓翔三浦綺羅、薮下希美木村文乃、段田重春光石研、大和紀夫北村一輝、湯上谷年雄小林薫。
共感ありがとうございます。
>ガーシー氏によりスキャンダルめいたことを言われてTVから追い出された綾野剛
そうでした、忘れてましたが。被害経験が、さらなる迫真の演技につながったかもしれませんね。
共感ありがとうございます。
そういや綾野さんも被害者経験ありでした、確かに凄いキャスティングです。しかし文春やガーシーに一分の理がある雰囲気が残ってしまうのが、現実の恐ろしさですね。そう考えると薮下先生のしくじりは、最初にまともに相手した事かもしれません。