「【”マスコミと世間に作り出された根拠なき推測による人権侵害”今作は原告の能面の如き無表情な母を演じる柴咲コウと、追い詰められて行く無実の教師を演じた綾野剛の物凄い演技に魅入られる恐ろしき作品である。】」でっちあげ 殺人教師と呼ばれた男 NOBUさんの映画レビュー(感想・評価)
【”マスコミと世間に作り出された根拠なき推測による人権侵害”今作は原告の能面の如き無表情な母を演じる柴咲コウと、追い詰められて行く無実の教師を演じた綾野剛の物凄い演技に魅入られる恐ろしき作品である。】
ー 今作は、2003年に福岡で起きた全国で初めて”教師による苛め”と認定された体罰事件の真相を書いた福田ますみ氏のルポルタージュを基に描いている。
そして、最も恐ろしいのは、今作は映画的演出は入れているが殆どが現実に起きた事であり、薮下の人生を壊しかけた氷室律子(柴咲コウ)一家は、何の罰も受けずにこの世界の何処かで今も生きているだろうという事実である。-
◆感想<Caution!内容に触れています。>
・今作の構成は、是枝裕和監督の「怪物」に酷似している。最初は氷室律子の証言による薮下の姿が描かれ、次に薮下の証言が映像で映し出されるのである。
そして、今作ではその中で、様々な人たちの”心の中の闇、怪物”が描かれているのである。
・更に言えば、氷室律子の供述による、小学校教師の薮下の氷室タクヤ(三浦綺羅)に対する様々な恐ろしき行為を行う姿を演じる綾野剛の、死んだ目の表情が物凄いのである。
今作は、綾野剛の”氷室律子により創り出された嘘”を演じる姿が、リアリティがあり過ぎるからこそ、成立しているのだと思う。
そして、薮下側から観たシーンでの、ドンドンドンドン、マスコミ、世間に作り出された根拠なき推測による噂により、精神的に追い詰められて行く薮下の姿。停職六か月を教育委員会のお偉いさんと思われる女から告げられた時の表情・・。キツイなあ。
真実の生徒に優しく接する薮下の姿と、氷室律子の嘘の薮下を演じる姿とのギャップが凄いのである。恐るべし、綾野剛である。
最早、現代邦画の代表的俳優と言って良いと思う名演である。
■様々な人たちの”心の中の闇、怪物”
1.薮下の上司の定年まで一年と少しの校長(光石研)と、教頭(大倉考二)の”とりあえず、謝れ!”と言う事なかれ主義の愚かしき姿。
2.その言葉に、戸惑いつつ従ってしまう薮下の姿。彼はその事を後から深く後悔するが、時すでに遅しである。
3.薮下の行為を格好のスクープとして追う、週刊誌記者(亀梨和也)とその上司(高嶋政宏)。何のウラも取らずに、薮下に”殺人教師”と言うレッテルを貼り、執拗に追う姿。今作では当時のマスメディアの在り方も、激しく糾弾しているのである。
4.何といっても、氷室タクヤの母、氷室律子である。
タクヤが学校の屋上から飛び降りようとしたときに突然現れるシーンで、直ぐに彼女の言っている事は嘘だと分かるのだが、柴咲コウの大きな瞬き一つしない目と、無表情が怖すぎるのである。凡庸なホラー映画が裸足で逃げ出す怖さである。
そして、彼女が幼き時にネグレクトの家で育っていた事が分かる過去シーンから、この恐ろしくも哀しき女は、息を吐くように嘘をつきながら生きてきた故に、怪物になってしまったのだろうと推測出来るのである。又、彼女の息子タクヤが”ADHD(多動性障害)だった点も関係しているのだろうな。”とも思うのである。
序でに、日に焼けた父の顔も怖いし、謎の男である。
■物凄く、頼もしく見えた人
1.人権弁護士湯上谷(小林薫)
常に笑顔で、冷静で、頭が切れる。薮下の人生を救った人である。こんな弁護士がいるんだなあ。この観ていてキツイ作品で、実にホッと出来る優しく頼もしい笑顔でありましたよ。
2.薮下の妻(木村文乃)
嫌がらせの電話が山にように掛かってくる中、夫を支える姿。
”貴方の味方だから!”という言葉は、涙が出そうになったよ。この奥さんの存在も、薮下を救ったのだよなあ。
3.氷室タクヤに苛められていたジュンヤの母(安藤玉恵)
大雨の中、”裁判の証言者になってくれ!”と頼む薮下の願いをインターフォン越しに切らずに聞く姿。そして、その後ろから聞こえて来る週刊誌記者の嫌らしい声。彼女は裁判には出ないが、氷室律子の真実の姿を告げたり、教室で無理やり謝罪させられる薮下を庇う、唯一の人である。けれども、それも薮下がキチンとジュンヤに接していたからであるんだよな。
■見応え十二分な法廷シーン
・原告の氷室律子の能面の様な姿と、それに対峙する人権弁護士湯上谷と薮下の姿。そして、湯上谷が次々に原告の氷室律子の嘘を暴いていくシーン。
1)愚かしき医者(小澤征悦)が、タクヤのPTSDの検査数値を113と告げた時、顔を伏せた女医の姿を見て直ぐに動き、タクヤの数値が氷室律子の証言により作られていた事を告げるシーン及び、実際の数値がほぼ常人と同じ事を示すシーン。
2)入院100日を超えるとの氷室律子の証言に対し、週末は家に居て近くの公園で元気に遊んでいた姿を見たという証言を取り、原告側弁護士(北村一輝)に反駁する姿。
だが、氷室律子の能面の様な表情は変わらないのである。
■法廷での白眉シーン
・薮下が最終弁論を行うシーンでの、彼の台詞が実に沁みるのである。
”子供は嘘をつきます。それは仕方がない・・。けれども、誰かがその嘘を叱らなければいけない・・。”
氷室律子が、ADHD(多動性障害)である息子タクヤを叱るシーンは今作では一度も映されない。それよりも、氷室律子がタクヤの薮下から行われた指導の事を聞いた時の、”獲物を見つけたような目”を思い出すのである。
そして、裁判官は原告の主張を棄却するのであるが、氷室夫婦は今度は市を相手に訴訟を起こし、賠償金330万円を得るのである。
<そして、10年後。
薮下を護った妻は最早この世にはいないが、彼に懲戒処分を全て取り消す裁決が下るのである。10年掛かってである・・。
薮下の息子は教育実習生として父と同じ道を歩み始め、薮下は湯上谷と路上で会い、お互いに年を取りましたね、と穏やかに会話を交わすのである。
今作は原告の能面の様な無表情な母を演じる柴咲コウと、追い詰められて行く無実の教師を演じた綾野剛の物凄い演技に魅入られる恐ろしすぎる作品なのである。>
■重ねて書くが、薮下の人生を壊しかけた氷室律子一家は、何の罰も受けずにこの世界の何処かで今も生きているだろうという事実が、実に恐ろしいのである。
↑なぜか送れないので続きです
どうしても部下目線で見てしまいました。他にも悪いやつたくさんいましたけどね(医者、550名の弁護士、教育委員会…)
私もNOBUさんみたいに部下を守れる上司になりたいです💡
コメントいただいたのに遅れてしまってすみませんでした💦
コメント拝見してNOBUさんみたいなかたが上司だったらなあ…なんて思いました。会議等でいきなり叱責してくる上司たまにいますよね。お辛い経験でしたね。私もとても顔に出やすい&仕事に関する主張ははっきりしているタイプなので正直、上司からすると扱いづらい部下なんやろうなあって思ってます🤨今回やっぱり主張するところは主張せなあかんかったし、
共感ありがとうございます!
教頭と校長の保身場面、あれは見るに堪えない部分でしたね。スクリーンの中ではない現実世界で、あのようなことが平然と行われているのが現状なんでしょうね。ニュースに注視していると旭川で同様の事件が頻発しているので、個人だけでなく教育委員会とか都道府県市区町村の責任も重大に思えます。





