「語り部の継承の物語」満天の星 Tofuさんの映画レビュー(感想・評価)
語り部の継承の物語
沖縄から鹿児島に向かって子供や老人を乗せて出発した疎開船の対馬丸が悪石島付近で1944年8月22日に米軍の潜水艦に撃沈されるが、護衛船は海に投げ出された人々を助けることもなく、むしろその事件については箝口令が敷かれ、戦後しばらく経つまでは知られることすらなかった。
私が「対馬丸」というものを知ったのは1970年代前半くらいだったので、ある意味かなり早い時期に知ったとも言える。通っていた小学校の図書室に置いてあった対馬丸の犠牲者の漂流記を読んだ記憶があるからだ。飢えと渇きに苦しみ、水分を得るために自分の尿まで飲んだといった記述が余りにも当時の自分にはショッキングだったからかも知れない。
本作はその沈んだ対馬丸の甲板員をしていた中島髙男が20年くらい前に受けたインタビュー映像をもとに、中島の孫で俳優の寿大聡が、祖父の死をきっかけに改めて対馬丸事件を知ろうと、生存者や研究者の話を聞きながら、当時何が起きたのかの真相に迫ろうとするドキュメンタリーである。
また、戦後80年が経過し、戦争体験者が数少なくなってきている時代に、このような悲劇を二度と繰り返さないために、次世代に語り継いでいくことの大切さを訴えかけ、体験を風化させないための方法を模索していく、「語り部の継承の物語」でもある。
大人が勝手に起こした戦争のせいで子どもたちが苦しむのは過去の話ではなく、現在でも変わらない。それを証明するために戦火の傷痕が生々しいウクライナまで足を運んで地元の人々の話を聞き、子どもたちと交流する。その意図はよく理解できるのだが、若干焦点がボケてしまったことは否めない。
なお、沖縄旅行に行ったことのある人なら、那覇空港から那覇市内に向かって58号線を進むと旭橋に入る手前くらいに若狭にある対馬丸記念館への標識が見えることに気づいていたかも知れない。でも、何人が実際に記念館まで足を運んでいただろうか?自戒を込めて、もっと自分ごととして捉えて、意識していこうと思った。
