「町の人々にとって何が一番大事なことなのか」能登デモクラシー おきらくさんの映画レビュー(感想・評価)
町の人々にとって何が一番大事なことなのか
映画の前半では、地方議会の闇をたった一人で追及し、手書き新聞で告発を続ける滝井さんの姿が描かれる。
町の人々に損得勘定なく奉仕する彼の利他的な人柄に感情移入させられた後、大地震が発生。
町中の家屋が倒壊する中、監督が滝井さんにスマホで連絡を取ろうとするが繋がらない。
町の人々に滝井さんの行方を聞いても、誰も彼の居場所を知らない。
まるで親戚のように、赤の他人であるはずの滝井さんのことを本気で心配してしまった。
安否が判明した時は思わず涙がこぼれた。
穴水町の議会が推し進めようとしている「多世代交流センター」は、まるで大阪万博。
町の人のためと言いつつ、実態は利益誘導に過ぎない。
腐敗した議会のトップである町長は、まさに悪の親玉とも言える存在だったが、地震発生後に劇的に変化。
前半は権力者のために動いていた彼が、後半では地元住民のために汗水流して働く姿に衝撃を受けた。
選挙パフォーマンスのために一時的にそういった活動をする政治家はいるが、町長はそうは見えなかった。
大地震で苦しむ町民の姿に心を動かされたのか、それとも石川テレビで議会の不正疑惑が報道され、自身の行動を正さなければならないと思ったのか、その変貌の理由は謎に包まれている。
しかし、利己的だった人間が考えを改め、利他的な行動を取る姿はとても感動的だった。
前半では対立していたはずの滝井さんと町長が、後半、一緒になって住民たちの意見を聞きに行く場面は胸が熱くなった。
日本の政治は腐っていると感じることが多いが、この瞬間には希望を感じることができた。
ここで終わっていても十分に素晴らしい映画だと思うが、ラストにはとんでもないものが描かれる。
前半、一人の議員が選挙に当選する場面で、町長が選挙違反をするシーンがさりげなく映し出されていた。
映画のラストで、監督はそのことを町長に追及。
最初は余裕そうな振る舞いでとぼける町長だったが、監督の想定問答は完璧なようで、町長が何を言っても論破。
表情からは明らかに余裕がなくなり、ついに観念した町長は、最後は力のない表情で、どんな罰でも受ける覚悟ができているように見えた。
映画やドラマならともかく、リアルでこんなシーンを見たのは初めてかもしれない。
しかし、今目の前に映っている町長は以前とは違う。
彼は今や町民に寄り添う素晴らしい政治家になっているわけで、たとえ過去に過ちを犯していたとしても、彼を断罪することが本当に良いことなのだろうか?
そんなことを考えていたら、その後に監督が町長に語りかける言葉が予想外で衝撃的だった。
文春砲で不正が発覚した有名人を徹底的に叩くコメンテーターたちとはまるで逆だった。
町の人々にとって何が一番大事なことなのか。
それを考えれば、監督の行動に拍手を送りたい。
地震発生後、SNSなどでは過疎地域を切り捨てようとする意見が噴出し、不安に思った町民が町長に「街を残してほしい」と直訴。
SNSの意見を力強く否定し、町民を安心させようとする町長の隣にいた、馳浩石川県知事の冷めた表情が忘れられない。
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