「スパイが天職な割れ鍋に綴じ蓋」ブラックバッグ かばこさんの映画レビュー(感想・評価)
スパイが天職な割れ鍋に綴じ蓋
このスタイリッシュなエリート夫婦、仮面夫婦かと思いきや、互いへの全幅の信頼でもって結ばれた無二の関係、スパイとして。
信条、思考、スキルも仕事のスタイルも、相手のそれを尊重し尊敬し、深く理解しあえる同類として。
その次が、大分差があって互いの人間としての信頼がくるが、スパイとして信頼できるからの延長線上での人間性の判断で、それと付随して身体の相性、というところ。
裏切者の疑いあれば、愛する妻であろうときっちり検証する夫、それを知っても全く動じない妻。妻としたらむしろそういう夫が誇らしいことでしょう。
割れ鍋に綴じ蓋なふたり。
どっちが鍋でどっちが蓋かわかりませんが。
でもって間違いなく職場結婚だな。
二人ともスパイは天職。他の仕事は多分向いていない。
(NCSC)のエリート諜報員ジョージは、上司に指示され世界を揺るがす不正プログラム「セヴェルス」を盗み出した組織内部の裏切り者を見つける極秘任務に乗り出す。疑いをかけたのは、同僚で友人でもある5人、その中の一人は愛する妻。
ジョージは彼らを自宅のディナーに招待、薬物入り料理をふるまって彼らの本音と秘密を炙り出そうとする。
スパイ映画なのに会話劇で、言葉やちょっとした行動から裏切者と事の真相を探っていく作りで、こういうのは大好きなのでわくわくしながら推理劇に参加した。
特殊任務を隠語で「ブラックバッグ」と言うらしいが、ジョージも含めて6人が全員、自分だけの機密を抱えていて、違う意味だがそれらも「ブラックバッグ」と呼べそう。
各自の黒バッグの中身が結構過激で、妻を除く全員激しくイカれている。(ただし、妻は薬物入り料理をあらかじめ知らされているので本音も中身も分からない。妻を信用させるためのジョージの策でしょうが。)狭い範囲でカップル成立なのは特殊な職業で交友が制限されかつ拘束時間が長いからこうなってしまうんだろう。(その昔日本の大企業では24時間戦う前提の若手男性社員の「福利厚生」としてかわいい新卒の女の子を採用して社内結婚奨励、半径2メートルでの手近なカップルがいっぱい誕生してたんだよ、余談です。)
妻への疑惑は、衛星からの出張中の隠し撮りで、開発中のベータ版読唇解析ツールを使って、売り渡すのではなく「買い戻している」のが分かったところで晴れる。そこからばらばらに撒かれていた点が一気に集束して線になってくる。この事件は内部の陰謀であるという確信ができ、仕組むのが可能な人物をたどると、簡単にひとりに行きつく。妻キャスリンの上司のアーサーだ。
彼は、邪魔なライバルを蹴落とし、自分の大きな圧力となっている腕利き諜報員夫婦を相反させて自滅させるという、大変美味しい計略を思いついたのだ。
しかし、この敏腕現役天職スパイなカップルの前に敢え無く潰える。茶番のように暴かれて逆に窮地に追い込まれるのが痛快。踏んだ修羅場の数も違うし、そもそもスパイの神に愛されたような天賦のセンスを持った貫禄ある二人に対して、アーサーはいかにもチャラくて薄っぺらい。活け造り大好物の割には箸の使い方が下手だし。007をすこぉ~し(かなり?)おちょくってますね。
アーサーの趣味のひとつが釣りで、ボートとボート小屋を持っている。
一人で考えを纏める、人に聞かれたくない相談をする、誰かを〇す、死体を運んで沈める、ボートとボート小屋はスパイ的に大変使いでがある。
料理も趣味なら、疑われず自宅の食事会に人を招き、料理に巧妙に薬を仕込んで参加者をあやつることもできる。
趣味、というより実益があるから趣味にしているような、することなすこと、無駄なくスパイ道につながっているよう。人生=スパイなんですね、あっぱれな生き方です。
謎解き場面で「絨毯が新しい」のもスパイらしく非情な手際の良さで笑ってしまった。
ボディーやら血やら破片やらをまるめて包んでアーサーのボートでぽい、無駄がありません。絨毯は吸水性の良い素材使った特注品なのでしょう。
でもって、あの隠し口座の大金は、ほとぼりが冷めたら。。。
チャラいイケおじ上司のおかげで棚からぼたもち、ピンチを逆手に大逆転。最強のパワーカップルです。
スタイリッシュで知性的、インテリアとファッションが凝っていて見た目も耳も心地よい。
マイケル・ファスベンダーの太い縁のメガネ、ハイネックセーターにジャケット・スーツ、60年代スパイ風のクラシックないで立ちが素敵。キャスリンの装いも、ケイト・ブランシェットのミステリアスな雰囲気とスタイルの良さでモデルのよう、でもちょっと目立ちすぎますね、スパイは地味じゃなきゃ。
組織内の機材や職務上知りえた情報の活用につき、担当職員がかなりの権限を持っている、というか大分自由にしているのがちょっと驚き。個人の繋がりで気軽に受け渡ししちゃってコンプライス的に大丈夫なのか、そもそもそういう意識が希薄なのか。
どこまで実態に近いのかわかりませんが。
スティーブン・ソダーバグについて一家言持つほど造形深くないですが、集団(特に、スペシャリストの)を描くのに独特なスタイルを持っており、クールで乾いた作風だという印象。私はこの監督かなり好きだと思う。
共感・コメントどうもです。
かばこさんのレビューを読んで自分のレビューで「絨毯が新しい」に言及するのを忘れてた事に気付きました。
包丁は製品のケースと箱に入れて持ち運びます。デパートに砥ぎに来る人はみんなそうみたいですよ。道中で職質に会うとヤバいかもしれませんが、私は品行方正なので(?)職質にあった事がありません。


