佐藤さんと佐藤さんのレビュー・感想・評価
全1件を表示
「ほら、そういうとこだよ」って、どういうとこ?
ふがいない彼氏を支える彼女の物語はたくさんあるが、司法試験の受験を支えるために一緒に勉強し、妻の方が受かってしまうストーリーは面白い。さらに子どもが産まれ、家計のために妻は弁護士として活躍、夫は家庭でくすぶることになる。
無邪気で頑張り屋の妻の佐藤サチ(岸井ゆきのさん)が、無自覚に夫タモツ(宮沢氷魚)を傷つけていく。「合格おめでとう」が書かれたケーキのチョコを、不合格が分かった瞬間にパクっと証拠隠滅する。夫が丹精込めたお弁当を多忙を理由に手を付けず持ち帰り、処分されると「食べるのに!」と怒る。いろんな表情の岸井ゆきのさんが楽しい。
しかしこの映画、なぜかパズルの部品がひとつにまとまらないような感覚を覚えた。
まず時系列的に、今どのぐらいの絶望度や疲弊度を描いてるの?というのがはっきりしなかった。願書の締め切りに遅れるぐらいやる気を失い、試験をあきらめてNPOを始めると言い出したわりに、またふたりが固唾をのんで合格発表に臨むとは、感情のリズムがよくわからない。
笑顔の下に不満をためこみ、ついには…っていう爆発力がもっと作れたように思うのだ。
もうひとつ、タモツとの葛藤を描く映画のはずだが、サチにとっての衝突の種が意外にあっさり流されてしまっているようにも見えた。
子どもへの責任をタモツに任せ、母としての気持ちが見えにくい。 「一緒に故郷に引っ越して暮らそう」という提案はサチの弁護士としての仕事を軽視する発言でもあるのに、そこには噛みつかなかったこと。
つまり、サチは夫の合格を最優先して、結果的にそこに安住してしまったということだろうか。それに対し、「合格してから離婚する」とは! 男のプライドを守るための、情けないけれどすごい反撃だと思う。
結局誰が悪かったのかといえば、タモツの器が小さいのはもちろんだが、サチの愛もちょっと浅かったかもしれない。
主演お二人と監督の挨拶付きの先行上映で鑑賞。それもあってなのか、ストーリーよりもふたりの演技、表情が余韻として残りました。
全1件を表示
