「観る者の記憶と重なる夫婦のリアル」佐藤さんと佐藤さん おじゃるさんの映画レビュー(感想・評価)
観る者の記憶と重なる夫婦のリアル
■ 作品情報
同じ「佐藤」という苗字をもつ二人の男女、佐藤サチと佐藤タモツの15年間にわたる関係性の変化を描いた物語。監督は天野千尋。 主要キャストは岸井ゆきの、宮沢氷魚、藤原さくら、三浦獠太、佐々木希、ベンガル。脚本は熊谷まどかと天野千尋が担当。
■ ストーリー
活発で行動的なサチと、真面目で内向的なタモツは大学で出会い、正反対の性格ながら互いに惹かれ、交際と同棲を始める。弁護士を目指すタモツが司法試験に挑むも不合格が続く中、彼を支えようとサチも勉強を開始する。しかし、予期せぬことにサチだけが試験に合格し、弁護士として働き始めることとなる。これにより、二人の役割は逆転し、タモツは主夫として家事や育児を担いながら司法試験の勉強を続けるという、新たな生活が始まる。二人は家事や育児に対する価値観の違い、お互いの状況への理解の欠如からくるすれ違いや葛藤に直面する。かつて保たれていた夫婦のバランスはしだいに崩れ始め、関係性はヒリヒリするようなリアルさで描かれていく。
■ 感想
公開週は都合が合わず観に行く機会を逃し、そのままスルーしようか迷っていたのですが、馴染みの劇場の上映終了予定を知り、平日の仕事終わりに滑り込みで鑑賞してきました。おかげで、キャパ150人のスクリーンを貸し切り状態で、心ゆくまで本作の世界に浸ることができました。
サチとタモツの歩む15年間の道のりには、深く共感し、最初から最後まで没入して見入ってしまいました。異なる人生を歩んできた二人が、互いの人生を重ね合わせる中で感じる喜び、幸せ、難しさ、苦しみ、苛立ちといったさまざまな感情が、時に微笑ましく、時に懐かしく、そして時に切なく、胸が締め付けられるように伝わってきます。結婚や子育てを経験された方なら、きっと二人のどちらかに自分を重ね、自身の思い出を振り返らずにはいられないのではないでしょうか。
それほどまでに、岸井ゆきのさんと宮沢氷魚さんの演技は自然で実に見事で、お二人の配役がイメージにぴたりとハマっていたように感じます。鑑賞中はつい自分と同性の立場に感情移入しがちになりますが、サチもタモツも、本当にどちらも悪くない、むしろ二人とも精一杯がんばっていたと思います。結婚生活や子育てとは、まさに本作で描かれているような現実の連続なのだと痛感します。
そして多くの場合、改姓、仕事との両立、実家の相続、親の介護、熟年離婚といった、さらに多くの問題が付随してきます。本作は一組の夫婦に焦点を当てながらも、現代社会で夫婦が直面するさまざまな問題を浮き彫りにしているように感じます。それを声高に叫ぶことなく、スクリーン越しに客観的に提示している点がすばらしいと感じます。おかげで、少し冷静になって相手の立場で物事を考えることができるように思います。
結婚経験のない方にとっては、なんだか将来に希望がもてないような展開に映るかもしれません。しかし、その覚悟をもって臨めば、乗り越えられることも多いはずです。「困難があるから結婚も出産も諦める」のではなく、それを二人で一緒に乗り越えるからこそ、よりいっそう強まる愛や絆があると思います。なんてことを自分ももっと早くから知っておきたかったです。
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