「等身大でリアルな現代日本の夫婦あるいは家族の姿を描き出す」佐藤さんと佐藤さん Tofuさんの映画レビュー(感想・評価)
等身大でリアルな現代日本の夫婦あるいは家族の姿を描き出す
大学時代に同じ珈琲研究会に所属していた同級生の佐藤サチと佐藤タモツ。卒業後、サチは一般企業に就職し、タモツは塾講師をしながら司法試験を目指していた。同棲中にタモツの勉強を応援しようと一緒に司法試験の勉強を始め、タモツより先にサチが合格して弁護士になる。そんな矢先、妊娠が発覚し籍を入れることにする。しかし、配偶者と子どもを支えようと必死で働くサチと子育てに翻弄されノイローゼ気味になるタモツとの間に次第に亀裂が入り始める……。22歳から37歳までの15年間の軌跡を辿りながら、その関係性の変化を描いていく。
一家を支えるためにと仕事に精を出す一方、家庭は配偶者に任せっきりで、配偶者から見ると家事をやっているつもりになっている相手に余計腹が立つ…なんていう話はごまんとある。ただ、多くの場合は外で働いているのが男で、家事を担っているのが女というパターンが大半だろう。本作ではその立場が入れ替わっていることで、自分の経験と照らし合わせながらウンウンとうなづきながら見たり、逆の立場を客観的に見ることで身につまされて反省したりという人も少なくないのではないだろうか。
一方、ステレオタイプ的に男尊女卑な昭和の価値観を持ったサチのクライアントである菅井と離婚を望んで夫と話すことを拒否する妻。
さらに、サチのかつての同僚の篠田は真剣に離婚を考えていたが、戸籍上は夫婦のままだが、夫婦というよりパートナーとして一定の線を引きながら生活することで逆に良好な関係を築くことができた。
佐藤同士の婚姻は、結婚しても離婚しても苗字が変わらないことで、異姓カップルが感じるストレスを免除されている現実。これこそまさに夫婦別姓を望むカップルが望んでいることであろうが、篠田にはそれが許されていなかった。
そして、サチとタモツの実家の家族もまた彼らとは異なる価値観を押し付けて来る。
もちろん従来型の家族像に縛られたままで、しかしそこに幸せを感じている人々も決して少なくないだろう。だが、本作に登場する幾つかの家族を見ただけで、現代日本の「家族」というものの在り方や価値観の多様性がうかがい知れる。しかし、それこそ等身大でリアルな現代日本の夫婦あるいは家族の姿と言えるのではないか。
ただし、ここで描かれることは必ずしも日本固有のものとは言えない。司法試験で妻に先を越されて自尊心を傷つけられるタモツの姿を見ながら思い出されたのは、自分が見出した妻がスターになるにつれて自分自身は尊厳を失っていく男を描き、1937年、1954年、1976年、そして2018年と4回も映画化されている “A Star Is Born” (邦題は『スタア誕生』/『スター誕生』)”だ。
また、夫婦の物語として2019年のNetflix作品 “Story of Us” (邦題『マリッジ・ストーリー』)なども脳裏に浮かぶ。
夫婦関係は人それぞれと言いながらも、どこの国でも共通する部分も少なくないのだろう。
良質な、既にさまざまな経験を積んだ大人のための作品だ。
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