「私たちは観察する」佐藤さんと佐藤さん ジュン一さんの映画レビュー(感想・評価)
私たちは観察する
『サチ(岸井ゆきの)』と『タモツ(宮沢氷魚)』の
十五年間にわたる「マリッジストーリー」。
二人は元々は大学の同じ法学ゼミの同級生。
弁護士を目指すものの司法試験に落ち続ける『タモツ』を励ます意味もあり
自身も勉強を始めた『サチ』だが、
あろうことか彼女の方が先に合格してしまう。
弁護士事務所に就職するのと同時に妊娠も判り、
結婚と出産を経て、
家事や育児は勢いアルバイト暮らしの『タモツ』の分担に。
旧来からの日本的家族観、
男が稼ぎ女が家庭を見るのと逆の暮らしが
今まではしっくり行っていた二人の間に波風を立てる。
世間は勿論のこと、
とりわけ男性の側に
主夫的な役割への忌避感と
自分の目標を叶えられぬ焦りが湧き立って来る。
育児負担の重さに加え、
何者にも成り切れない自分のプライドが
著しく損なわれる。
男女逆転ながら、二人の会話は有りがち。
ただの何気ない一言も、
立場やシチュエーションが違えば、
人の胸を刺す言葉に変容する。
もっともこうした状態は、実際の家庭でもまま見られるコト。
夫婦や同棲生活を経験したことのある者なら、
「ああ、あるある」と、ほろ苦い記憶が甦る。
本来、二人の間のパートナーシップは対等であるハズなのに、
現実にはどちらかにしわ寄せが行き、
互いの関係をぎくしゃくさせる。
感情的な売り言葉と買い言葉の果てに
収拾のつかない状況にまで堕ちて行き、
修復の機会はあっても、
一度動き出した歯車は止まらない。
最後のシークエンスは象徴的。
同じ場所に住むことの頸木から解き放たれたものの、
子育てを仲立ちとした共闘は続いている。
程好い距離感が、
却って互いを尊重する気持ちが強く芽生えることの不思議。
四六時中顔を突き合わせることが、
こうした心の余裕を奪い去ってしまうのだろうか。
カメラの使い方が卓抜だ。
全体として引きの画面を多用し、
手持ちカメラのように時としてゆらゆらと揺れる。
人物の肩越し、背中越しのショットも多く、
ドキュメンタリーのフィルムを見せられているよう。
観客は彼女と彼の暮らしを、
第三者の目で、時に微笑ましく、
時に辛く目の当たりにする。
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