劇場公開日 2025年6月27日

「F1®/エフワン 映画レビュー」映画「F1(R) エフワン」 honeyさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0F1®/エフワン 映画レビュー

2025年7月14日
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ジョセフ・コシンスキー監督が手掛けた『F1®/エフワン』は、モータースポーツの最高峰であるフォーミュラ1の世界を舞台に、圧倒的な映像体験と普遍的な人間ドラマを融合させた野心作。その完成度は、コシンスキー監督の前作『トップガン マーヴェリック』で培われた、実写とCGの境界を曖昧にする革新的な映像技術をF1に持ち込んだ点で際立つ。F1マシンの時速300kmを超えるスピード感、エンジンの轟音、そしてドライバーにかかるGの重圧が、IMAXカメラを駆使した撮影と現役F1ドライバーとの連携により、観客をコックピットに引きずり込むような没入感を生み出す。特に、実際のF1レース中に撮影されたシーンの臨場感は、映画史に残るレベルと評される。
一方で、物語の骨格を成すドラマ部分には、スポーツ映画の王道を行く展開が見受けられる。ベテランと若手の世代交代、あるいは再起の物語というテーマは、観客に親しみやすいものの、時に予測可能な展開となり、キャラクターの葛藤や成長が映像の迫力に比してやや浅いという指摘もある。しかし、それはエンターテインメント性を最大限に引き出すための選択とも解釈でき、F1ファンのみならず、F1に馴染みのない観客でも、その圧倒的な映像と音響、そして普遍的なテーマによって十分に引き込まれる。本作は、F1という特殊な世界を、映画という媒体を通して最大限に魅力的に描き出した点で、商業的成功と芸術的評価のバランスを高い次元で実現した作品と言えよう。
ジョセフ・コシンスキーの監督手腕は、本作においてもその真骨頂を発揮。彼が最も得意とするのは、現実と見紛うばかりのリアリティを追求した映像表現。F1という高速かつ危険なスポーツのダイナミズムを、IMAXカメラによる息をのむようなショット、そして実際のF1チームやドライバーとの綿密な連携によって見事に捉える。特に、カメラを車両に直接搭載し、時速300kmを超えるスピード感を体感させる演出は、映画史に残るレベル。レースシーンにおける音響デザインも特筆すべき点であり、エンジンの咆哮、タイヤのスキール音、そして風を切る音など、一つ一つの音が緻密に計算され、観客を興奮の渦に巻き込む。キャラクターの心情を、言葉ではなく目線や距離感で演出する手際も巧み。
ブラッド・ピットは、かつて輝かしいキャリアを誇りながらも低迷するベテランF1ドライバー、ソニー・ヘイズという複雑な役どころを、その円熟した演技力で繊細かつ力強く演じきる。彼の演技は、過去の栄光への執着、年齢による衰え、そして若手への嫉妬と期待がない混ぜになった心情を、表情の細かな変化やセリフの間の取り方から見事に表現。特に、引退を迫られながらも再びレースに挑むことを決意する際の、内なる情熱と諦めが入り混じった眼差しは観る者の心を掴む。F1という過酷な世界で生きる男の苦悩と葛藤、そして決して折れない精神力をリアルに描き出し、単なるカッコいいベテランではない、その背後にある人間的な弱さや脆さをも見せつけることで、観客に深い共感を抱かせる。彼の存在感はスクリーン全体を支配し、観客をF1のコックピットに引きずり込む。
ダムソン・イドリスは、新進気鋭の若手ドライバー、ジョシュア・ピアースとしての野心と、ベテランへの尊敬、そして彼自身の葛藤を等身大で演じる。彼の演技は、若さゆえの荒削りさ、感情の起伏の激しさ、そして勝利への強い渇望を瑞々しく表現。特に、先輩ドライバーとの間に生まれるライバル意識と、同時にリスペクトを抱く複雑な感情の機微を、繊細な表情の変化で巧みに示す。彼の存在は、世代交代というテーマに説得力を持たせ、物語に新たな活力を与える。
ケリー・コンドンは、チームの戦略家として、知性と冷静さを兼ね備えた女性像を説得力を持って演じる。彼女の演技は、感情を表に出すことは少ないものの、チームへの深い愛情と、勝利への強いコミットメントを、その眼差しや、時折見せる決意に満ちた表情から感じさせる。男性社会であるF1の世界で、自身の役割を全うしようとする彼女の姿は、物語に奥行きを与え、レースの裏側にある人間ドラマを豊かにする。
ハビエル・バルデムは、ベテランチームオーナー、ボーデン・ベルナールとして、その存在感と深みのある演技で物語に重厚さを加える。彼の演じるオーナーは、チームの成功とドライバーたちのキャリアを見守る一方で、F1ビジネスの厳しい現実と向き合う人物。バルデムは、冷静沈着な判断力と、時折見せる人間味あふれる表情のコントラストを通じて、F1という過酷な世界におけるリーダーの孤独と責任を見事に表現する。彼のわずかな表情の変化や声のトーンから、長年の経験に裏打ちされた知恵と、若き才能への期待、そしてF1への深い愛情が伝わってくる。
『F1®/エフワン』の脚本は、F1という特殊な舞台設定を最大限に活かしつつ、普遍的な人間ドラマを描こうとする意欲作。その核となるのは、F1ドライバーたちの葛藤、特に世代交代と再生というテーマ。かつての栄光を取り戻そうとするベテランと、新時代の波を象徴する若手ドライバーの対比は、スポーツ映画の王道とも言えるが、F1という極限の状況下で描かれることで、より一層の緊張感とドラマ性を生み出す。
ストーリーは、かつて輝かしいキャリアを誇りながらも、近年は低迷している主人公が、新たな才能を秘めた若手ドライバーと出会い、彼を指導しながら自身の再起をも目指すという構成。この師弟関係、そしてライバル関係へと発展する人間模様は、物語に深みを与え、観客の感情移入を促す。特に、レース中に発生するアクシデントや、チーム内の策略、あるいはメディアからのプレッシャーといったF1特有の要素が、ドラマを一層盛り上げる。
しかし、物語の展開においては、いくつかの点で予測可能性が否めない。ベテランの復活劇、あるいは若手の台頭といった展開は、ある意味でスポーツ映画の「お約束」であり、斬新さに欠ける部分も散見される。また、登場人物の葛藤や背景が、時に表面的な描写に留まってしまい、その深層心理まで掘り下げきれていない印象も受ける。例えば、主人公が抱える過去のトラウマや、若手ドライバーの秘めたる才能の源泉などが、もう少し掘り下げられていれば、より感情移入できたかもしれない。それでもなお、脚本はF1という世界に深い敬意を払い、その魅力を余すところなく伝える。レースの戦略、チーム間の駆け引き、そしてドライバーの心理戦など、F1の奥深さが丁寧に描かれる。また、ヒューマンタッチな要素も盛り込まれており、単なるレース映画に終わらず、人間関係の複雑さや、友情、そして家族愛といった普遍的なテーマにも触れている点は評価できる。特に、クライマックスのレースシーンは、これまでの物語の伏線を回収し、圧倒的なカタルシスをもたらす。
本作の映像は、ジョセフ・コシンスキー監督ならではの、研ぎ澄まされた美学が貫かれる。F1マシンのフォルム、サーキットの壮大なスケール、そしてレース中のドライバーの表情など、細部に至るまでこだわりが感じられる。IMAXカメラの性能を最大限に引き出し、観客をF1の世界に文字通り引き込むような没入感は、他の追随を許さない。美術に関しても、F1ピットのリアルな再現度や、チームのガレージ、そしてホスピタリティエリアのデザインなど、F1の世界観を忠実に、かつ魅力的に構築。衣装においても、各チームのレーシングスーツやピットクルーのユニフォームなど、細部に至るまでこだわって作られており、視覚的な情報を通してF1の世界観をより一層深める。
編集は、本作の心臓部。特にレースシーンにおける編集は、観客を飽きさせない巧みなリズムとテンポを生み出す。ハイスピードなF1マシンの動きを、瞬時のカット割り、そして異なる角度からのショットを組み合わせることで、速度感と緊張感を最大限に高める。また、レース中の緊迫した状況と、ピットの戦略会議、そしてドライバーの心理描写などを交互に挿入することで、多角的な視点から物語を紡ぎ出し、観客を飽きさせない工夫が凝らされる。ドラマパートにおいては、登場人物の感情の機微を丁寧に拾い上げ、物語の流れをスムーズにする。全体の構成においても、緩急のバランスが絶妙で、観客を飽きさせない工夫が随所に凝らされる。
本作の音楽は、ハンス・ジマーによるスコアがF1の壮大な世界観をさらに盛り上げる。彼の音楽は、レースの興奮を煽るだけでなく、登場人物の感情の動きを繊細に表現し、物語に深みを与える。特に、レース中の音楽は、アドレナリンを刺激するようなアップテンポな曲調から、緊張感を高めるような重厚なサウンドまで、様々な表情を見せる。音響デザインは、本作の最大の魅力の一つ。F1マシンのエンジンの咆哮、タイヤのスキール音、そして風を切る音など、一つ一つの音が非常にリアルに、そして立体的にデザインされる。IMAXシアターで体験すれば、F1マシンの走行音に全身が震えるような臨場感を味わえるだろう。主題歌は、作品の世界観にマッチした力強い楽曲であり、映画全体のトーンを決定づける重要な役割を果たす。

作品
監督 (作品の完成度) ジョセフ・コシンスキー 112.5×0.715 80.4
①脚本、脚色 アーレン・クルーガー B+7.5×7
②主演 ブラッド・ピットB8×3
③助演 ダムソン・イドリス B8×1
④撮影、視覚効果 クラウディオ・ミランダ S10×1
⑤ 美術、衣装デザイン 美術マーク・ティルデスリー ベン・マンロー 衣装ジュリアン・デイ A9×1
⑥編集 スティーブン・ミリオン
⑦作曲、歌曲 ハンス・ジマー A9×1

honey
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