「みにくいアヒルの子」映画「F1(R) エフワン」 ストレンジラヴさんの映画レビュー(感想・評価)
みにくいアヒルの子
「レースで死ぬと分かっていても走る。迷わずにな」
かつて将来を期待されながらも、レース中の事故で表舞台を去った元F1ドライバー・ソニー(演:ブラッド・ピット)は、現在は流しのレーシングドライバーとして各地を巡っている。そんな彼に、F1でのかつてのチームメイト・ルーベン(演:ハビエル・バルデム)が会いに来る。ルーベンはF1チーム・エイペックスGPの代表を務めていたが、チームは2年半レース未勝利、3年連続で未勝利だと役員会によってチームが売却されるドン底の状態だった。1stドライバーにも抜けられ、ことごとくオファーを断られたルーベンはソニーにF1への復帰を打診する。
スポーツものにありがちなストーリー展開に、30年ぶりにF1ドライバーに復帰するというメチャクチャなキャラクター設定。数年間のブランクを経てF1に復帰したアラン・プロストやミハエル・シューマッハーでさえ、復帰後の戦績は芳しくなかった。プロスト曰く「復帰前と復帰後では何もかもが違った」。そりゃあそうだ。自分も中学生からF1のファンを始めたが(因みにフェラーリ党)、18歳の時、大学受験で1年空けただけでレギュレーションからチーム、そしてドライバーに至るまで浦島太郎状態になってしまった。観る側のファンでさえそうなのだから、当事者ならば尚更だ。なのでソニーの設定には「そりゃあないでしょう(笑)」と思っていたが、作品そのものはとても面白かった。実際のF1が全面協力し、制作には通算最多勝にして最多タイの7度ワールドチャンピオンに輝いたルイス・ハミルトンが携わっているため、レースシーンは原則実写、エイペックスGP以外は全て実際のコンストラクター、ドライバー、スタッフが出演していることに驚いた。
F1は個人レースでありながらチーム戦でもあり、ピットインのタイミングや1stドライバーと2ndドライバーの連係も勝利には不可欠な要素なのだが、とにかくソニーがよく見えているしとても頭の良い(そしてとても行儀の悪い)走りを見せていて、賛否はともかく「なるほど、このサーキットをそうやって走るのか」と唸ってしまった。つまり作品そのものが"コンバット"だったと言える。スケジュールの都合上一般上映で観たが、IMAXで観なかったことを後悔した。
ティフォシとしては、劇中フェラーリのドライバーであるシャルル・ルクレールとカルロス・サインツJr.(当時)がスパスパ抜かれる展開は大きくマイナスだったものの、かつてF1に存在した万年最下位の弱小チーム・ミナルディが大化けしたもしもの世界線を想像すると目頭が熱くなったのである。
ソニーが語る「全てがゆっくりに見えて、心拍が下がり、穏やかな景色が拡がる」状態(所謂ゾーン)を自分も経験してみたいと思った。
監督ジョセフ・コシンスキー、音楽ハンス・ジマーということもあり、「地上版トップガン」の名は決して大袈裟ではない。
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