「常闇の海の底から」ラスト・ブレス うぐいすさんの映画レビュー(感想・評価)
常闇の海の底から
深海での作業中に事故に遭った潜水士・クリスと彼の救出に挑む仲間達の、時間との戦いを描く作品。
この事故のドキュメンタリー映画を撮った監督が人物描写に脚色を加えて作った作品だそうで、『実話に基づいた…』ではなく『実話』と言い切っているのは、当事者との関係や取材に自信があるのだろう。救助活動の場面はライブ感のある映像でテンポよくまとめられていて、再現ドラマのような作品だった。
飽和潜水については、春に公開された『ミッション:インポッシブル/ファイナル・レコニング』で高圧神経症や減圧症の危険が描かれたのが記憶に新しい。本作中の潜水士達には、イーサン・ハントのように極秘の最先端ギアやヒーローパワーによる加護はないものの、時間をかけて仲間と共に準備をすることで、同じ危険と日常的に戦っている。
光も音もなく生身では生きられない場所へ、生命維持に必要なものやコミュニケーション手段を一纏まりのケーブルだけに頼って何度も赴くのは、肉体的・精神的な適正が不可欠だろう。クリス側の描写は短時間だが、ぞっとする瞬間が何度もあった。
事故が起きて、潜水支援船の操船チームや潜水チームがそれぞれの判断で動いていることに驚いた。自分の身近な場所であれば、まずトップの判断と指示を待つ時間が発生するだろうし、今回のように二次災害のおそれが払拭できないシチュエーションでは動かないことを選択するかも知れない。危機対処用のフローは準備してあるのだろうが、相手も準備していることを信じて動けるのは、沖に出れば自分達だけで生き抜くしかない船乗りの習慣なのかも知れない。
最短の手段が他にない、100%上手くいくかどうかわからない方法に賭け続けるのは属人的かも知れないが、このメンバーでなければ達成できなかったことだとも言え、熱かった。
実録ドキュメント作品にありがちな、誰かを悪者にしたり責任を追及するような描写を入れず、不運が重なれば起こり得る事故・プロとしての誠意で救助に全力を尽くすという描き方が良かった。
今回は美談になったが、奇跡に頼らない方法が整備されることを願ってやまない。
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